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episode.1
中学は三年間、図書委員だった。
特別文学少女というわけではない。
ただ、文化部でクラスでも目立たない私が、周りから反感を買うことなく、また周囲のイメージを壊すことなく一年間努めあげられるのが図書委員だったというだけだ。
だから高校に入っても何気なく、特段深い理由もなく図書委員に立候補した。私が一年で唯一自主的に挙手をする機会といっても良い。
図書委員は貸し出し当番で昼休みが潰れるせいか、他の生徒からは敬遠されがちだ。いつもならペアになる男子が決まらずクラス委員長が「誰かやりませんか」と促すパターンになるのだが、珍しく今回は違った。
私の挙手から少し遅れて、一人の男子生徒が手を挙げた。
まだ新学期で、クラスメイトの名前のほとんどを覚えていない中、さすがの私でも知っている。クラスで一番顔の造形が良く、無口なのにいつも人に囲まれているその子は、名前を由岐亨といった。
「よろしく、竹谷さん」
最初の委員会で、由岐は律儀に私に挨拶をしてきた。初めてまともに聞いた由岐の声は、落ち着いた耳心地の良い音だった。
私は「はあ、どうも」と冴えない返事と生ぬるい会釈を返して右隣の席に座った。名前しか知らない未知のクラスメイトの隣は、大層居心地が悪かった。
ノートにメモをとるフリをしてそっと左を見やれば、由岐は気だるそうに頬杖をついて黒板を見上げている。その横顔からは何を思っているのか推し量ることができなかった。委員会が終わるまで、ぐるぐると一つの疑問が私の胸の中で巡った。
由岐享は、どうして図書委員になったんだろう。
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