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かに思われたが――
「わらわは神じゃ。おぬしのその願い、しかと聞き届けたぞ」
そんな声が聞こえた気がした。しかも、女性の声だ。女神か? 何でもいいけどマジかよ。そんな簡単に都合よく聞いてくれるもんなの?
ほどなくして、俺は気を失ったのと同じ坂道の途中で目を覚ました。体の痺れも治まり、だるさも消えている。どうやら激しい雨が降り注ぎ、俺の火照った体を冷やしてくれたようだ。
見上げると、先ほどまで真っ青に澄み渡っていた空は、分厚い雲で覆い尽くされていた。
確か、今日の降水確率は0%だったはず。夢かとも思ったが、打ち付ける雨の冷たさが現実味を物語っていた。
助かったァァァァァァァ!!!!!!
両腕を広げ、天に向かってそう叫んだ俺の横を、観光バスが数台続けて下って行った。弟の通う小学校御一行様という札がフロントガラスに貼られたバスだ。遠足のためにチャーターされたものなのだろう。
突然の大雨でずぶ濡れになったのか、窓から見える児童たちは皆一様にタオルで頭や体を拭いている。遠足が中断されたためか、表情は皆暗い。
何台目かのバスの中に、弟の姿があった。
昨夜のウキウキした表情から一転、飼っていたザリガニが共食いしてしまった時と同じような顔をしている。
弟を熱中症から守るという目的はおおよそ果たせた。自分も命拾いをした。
――だが、頬を伝う雨水がやたらとしょっぱいのは何故なんだろう。
◇
翌日、休み明けの放課後――
俺はまた可愛いあの娘が友達とお喋りしているのを立ち聞きすることになった。
「昨日、隣のクラスのM君とデートで動物園に行ったんだけどね、急に雨が降り出してさんざんだったの〜。私って雨女なのよねぇ。でもそのおかげで逆にM君と距離が縮まって、付き合うことになったの」
ありがとう女神。M君とどうかお幸せに。
あれ? おかしいな、何だか鼻の奥がツンとするぜ。きっとアレだ。雨に打たれて風邪を引いてしまったせいだ。
完
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