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第1話・失った光。
ジージーと鳴く夏虫の羽音と一緒に、僧侶さんによる低声のお経が聞こえてくる。
今日は僕、美原 比良の父、清人さんの御通夜だ。
父さんは享年七○歳だった。
僕の隣では娘さんの奏美さんと彼女の娘さんである僕と同い年、高校二年生の美紗緒さんが鼻をすすっている。
朝から午後七時時現在までシトシトと降り続けている雨はまるで、父さんとの別れを惜しんでいるようだ。
そんな中、奏美さんの旦那さんである和夫さんは集まった親戚や関係者の方々に深々とお辞儀をしながら挨拶を交わしている。
父さんは優しく穏やかな人で、誰からも慕われていた。だから別れを惜しみ、こうやって御通夜に駆けつけてくれる。
皆、父さんを慕っていた。
その父さんを、僕は――……。
罪悪感に駆られている僕は飾られた父さんの写真さえも見ることができず、ただ顔を俯けていた。ぎゅっと合わせた唇は、嗚咽さえも許さない。
泣いてはいけない。
泣く資格は自分にはないのだ。
僕はズボンを膝の上で握りしめる。
そんな僕を横目に集まった人々は異質な視線を向けてくる。
凍えるような冷たい眼差しだ――。
「ほら、あの子でしょう? 清人さんに拾われた子って……」
「本当、あの子よ。何あの雰囲気、肌が真っ白だし、覇気がないわね。それに、あの腰まである長い髪の毛……なにアレ、灰色? 幽霊みたい」
「こわいわ」
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