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第5話・優しい手の温もり。
僕が完全に目を覚ましたのは夕方になってからだった。
目を開けると、赤色の、眩しい太陽の光が部屋全体を照らしていた。
辺りを見渡すけれど、ここは父さんの家じゃない。だって父さんの家は和室。
ここは洋室で、クリーム色をした壁に包まれた部屋はあたたかい空間をつくり出していた。
窓からは夏の風がふんわり入ってくる。そのたびに、真っ白いレースのカーテンがなびいていて、それがすごく優しい雰囲気を表していた。
すぐ隣には木で作られた木目調のナイトテーブルがあって、棚には洋書が三冊ほど並んであった。桃色のモコモコのカーペットが敷いている。
「ぼくはいったい……」
どうしたんだっけ?
視線を戻して見下ろせば……。
僕がずっと着ている喪服の黒が目に入った。その瞬間、僕の全身が凍りつく。ゆったりとした気分はあっという間に跡形もなく消え失せた。
だって、だって僕は今、ベッドの上にいる。それは、眠ってしまったことを意味するんだ。
「ここはどこ? そして意識を失った僕はいったい何をしたの?」
わからない。
わからない。
もしかして、トラックに轢かれそうになった時、僕を助けてくれた男の人の部屋なのかな?
眠ってしまえば意識を失う。
眠りは、僕にとって許されないこと。
だって、霊体たちは意識を失った僕に乗り移り、魂を汚すため、誰かを傷つけるはずだ。
まさか、僕はあの優しそうな男の人を手にかけてしまったのだろうか。
奏美さんのように、首を絞めたのかもしれない。
――また、やってしまったのかもしれない!
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