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「あの、本当に怪我もないです」
本人が何も無いと言っているのに、なかなか信じてくれない。さっき、駆け下りた階段をゆっくり上っていく。
言わなきゃ、いけないのかな。僕が特異体質だっていうことを……。
言いたくないけれど本当のこと。
それに、信じてくれるかなんて分からないし――。
頭のおかしな奴だって思われちゃうかもしれない。
嫌われるのは正直怖い。
でも、だけど――。
「あの、僕……」
口をひらいた僕は、すでにベッドの上に下ろされていた。
僕はもちろん、男の人の顔を見ることができず、モコモコのカーペットが敷いている床を見つめる。
声が震えてしまうのは、初対面の人にも、僕が醜いと肯定されるのが怖いからだ。
「本当にどこも痛くないです。怪我もしていないです……だから……」
語尾が少しずつ声がしぼんでいく。すると男の人の顔が近づいてくる気配がした。
僕は育ての父親の命を奪った醜い存在だ。
見ないで――。
僕を、そんな綺麗な目で見つめてこないでほしい。
僕はそこらへんにいる幽霊よりもずっと性質が悪い化け物だから……。
「汚いから見ないで……」
言ったとたん、目から頬に向かって流れる涙。その涙はやがて、僕の顎を伝って膝の上で強く握りしめている拳に当たった。
「僕は、人殺しだから……」
特異体質の、僕の体調が軽くなったのは父のおかげだった。父が僕の身代わりになって、帰らぬ人となってしまった。
僕が、父さんの命を奪った。
そう思うと、涙は次から次へと頬を伝い、流れ落ちていく……。
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