第5話・優しい手の温もり。

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「あの、本当に怪我もないです」  本人が何も無いと言っているのに、なかなか信じてくれない。さっき、駆け下りた階段をゆっくり上っていく。  言わなきゃ、いけないのかな。僕が特異体質だっていうことを……。  言いたくないけれど本当のこと。  それに、信じてくれるかなんて分からないし――。  頭のおかしな奴だって思われちゃうかもしれない。  嫌われるのは正直怖い。  でも、だけど――。 「あの、僕……」  口をひらいた僕は、すでにベッドの上に下ろされていた。  僕はもちろん、男の人の顔を見ることができず、モコモコのカーペットが敷いている床を見つめる。  声が震えてしまうのは、初対面の人にも、僕が醜いと肯定されるのが怖いからだ。 「本当にどこも痛くないです。怪我もしていないです……だから……」  語尾が少しずつ声がしぼんでいく。すると男の人の顔が近づいてくる気配がした。  僕は育ての父親の命を奪った醜い存在だ。  見ないで――。  僕を、そんな綺麗な目で見つめてこないでほしい。  僕はそこらへんにいる幽霊よりもずっと性質が悪い化け物だから……。 「汚いから見ないで……」  言ったとたん、目から頬に向かって流れる涙。その涙はやがて、僕の顎を伝って膝の上で強く握りしめている拳に当たった。 「僕は、人殺しだから……」  特異体質の、僕の体調が軽くなったのは父のおかげだった。父が僕の身代わりになって、帰らぬ人となってしまった。  僕が、父さんの命を奪った。  そう思うと、涙は次から次へと頬を伝い、流れ落ちていく……。
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