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「……っく、っひっく…………」
あれほど我慢していた嗚咽はぎゅっと閉ざした唇から漏れる。
その時だ。不意に僕の身体があたたかな体温に包まれた。
「君が――」
ずっと近くから聞こえた声にびっくりして見上げれば――男の人に抱きしめられていたんだ……。
「君が今までどう生きてきたのかを理解することは容易ではないだろう。だけど少なくとも、わたしの目に写る君はとても美しいと思うよ」
――うそだ!
「違うっ! 見た目でもわかるでしょう? 僕の髪は、ほら。焼けた後の灰みたいな、汚い色をしているっ!!」
僕は、男の人の腕の中でブンブンと頭を振って、汚らしい灰色の髪をひと房握ると、痛みを無視して強く引っ張った。
……怖い。さっき会ったばかりの人に、気持ち悪いと肯定されるのが怖い。
だけど本当のことだから仕方ない。
僕は唇を噛みしめ、何を言われてもいいように覚悟して、下を向く。
そうしたら強く包み込まれた。
それから指が伸びてきて、僕の顎をそっと持ち上げたんだ。
汚いと肯定される言葉を聞きたくない。でも抱きしめられているから身動きが取れない。おまけに、顎を固定されているから顔も逸らせなくて……。だから代わりに、ギュッと目をつむる。
「そうかな? わたしには君の髪がプラチナブロンドのように見えるけれど?」
……え?
僕とは無縁の言葉をかけられたような気がする。
つむっていた目を恐る恐るゆっくり開けていくと……。
「なめらかな長い髪はまるで絹のようだね。思わず口づけたくなるほど美しい」
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