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父さんは山道に捨てられていた僕を哀れに思い、見て見ぬふりができなかったと、そう言っていた。
今となっては遠い過去のあの頃がとても懐かしい。
「父さん……」
父さんと過ごした日々のことを思い出し、涙していた時だった。ふいに誰か
の気配がして、身体が凍りつく。
まさか『彼ら』だろうか。
嫌な考えが頭に過ぎる。
ううん、でも『彼ら』は僕の恐怖を煽るために、人数が少ない時にしか狙ってこないはずだ。だからきっと『彼ら』ではない、はず――。
僕は、縁側を挟んだところにある明るい光の見える部屋をチラリと見た。
みんながいる明るい部屋と、僕がいるこの庭は、見えない壁で隔離されているように感じる。
――ああ僕は今ひとりで薄暗い庭にいる……。
そう実感すると、言い知れない孤独感に襲われる。
背筋に寒気が走る。すると突然、僕の右肩に生温かい何かが乗った。
「っひ!!」
反射的に身体が跳ね、一瞬息が止まる。
「ひとりでいると危ないよ?」
上から降ってきたこの声は知っている。父さんの知り合い、倉橋 千歳さんだ。
だけど、本当に彼は倉橋さんなのかな?
違うモノが化けているんじゃないかな?
なにせ『彼ら』は、成り済ますのがとても得意だ。もし、今僕が見ている倉橋さんが偽物だったとしたら……。僕を恐怖へと突き落とそうとしている『彼ら』だったとしたら……。
すごく怖いけれど、本人かどうかを確かめるため、涙でゆがんだ視界のまま顔を上げた。
すると眼鏡の奥から覗く優しい目が僕を見ていたのに気が付いた。
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