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「倉橋さん……」
どうやら彼は本当に倉橋さんらしい。僕を恐怖へと突き落とす『彼ら』はこんな優しい目をしない。だから『彼ら』じゃない。
よかった……。
僕は詰めていた息をそっと吐き出すと、立ち上がり、頭ひとつ分ほど背の高い彼と向かい合った。
倉橋さんは父さんの友達の息子さんで霊媒師さんをしている。年齢は詳しくは知らないけれど、たぶん四十歳前後だろう。
ここは薄暗いから良く見えないけれど、黒髪の中に少し白髪が混ざっていて、それが一段と優しそうに見える。どうして僕が霊媒師の倉橋さんと知り合いなのかというと、これには少し理由がある。
僕はあまり大きな声では言えない、恐ろしい体質を持っているから……。
「驚かせてしまったようでごめんね。清人さんのこと……さぞかし辛いだろうね。何もできなかった私を憎んでいるかい?」
そう言う倉橋さんも、泣いていたみたいだ。優しい瞳が悲しそうに光っていた。彼も父さんの死に心を痛めているひとりだ。
「そんな!! そんなことないです!! 倉橋さんは僕を助けようと一生懸命尽くしてしてくれました。感謝こそすれ、憎む気持ちなんてありません!!」
倉橋さんの言葉に、ブンブンと頭を振れば、目から溢れた涙が散っていくのが見えた。
そんな僕を見た倉橋さんは眉尻を下げて微笑む。その顔はとても悲しそうで――倉橋さんは根っからの優しい人なんだと、あらためて実感した。
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