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2.打てない
少し練習すればできるようになる。
そうたかをくくっていた。
しかし、甘かった。
1か月経っても、2か月経っても、僕のバットはボールを捉えることができなかった。
そもそも120kmのボールってこんなに速いなんて知らなかった。
まさに弾丸だ。弾丸を棒で打つ? できるのか、おい?!
「えいや!」
掛け声を上げ振るが、ボールはバットをかすったものの、前に飛ぶことはなく、跳ね上がった後バウンドし、僕のすねを直撃した。
「いって!」
痛みにもだえたが、球は次々と飛んでくる。くそう! と声を漏らしながら闇雲にバットを振る。が、当たる気配はなく、白球は次々と僕を通り過ぎていった。
ここまで当たらないとなると本当に僕には野球の才能というやつがないのだろうか。がっくりしつつ背後を振り返ると、順番待ちをしている高校生たちと目が合った。
すみません、と小さく詫びてバッターボックスを出る。ネットをからげ、外に出て、彼らが終わるのを待つべく、列の最後尾に並びながら持参していたペットボトルのお茶を飲む。
さすがに2か月続けているから、もう筋肉痛にはならない。でも、上達しているという感覚もない。かすることはあっても、ボールを前に飛ばすことが僕にはできない。
しかし……僕ができなかったことを、順繰りにバッターボックスに入っていく高校生たちはできている。
こきん、こきん、と軽やかな音を立ててボールをはじく彼らを見つめながら、僕はがっくりと肩を落とす。
なんでできないのだろう。僕も高校生になったらできるのだろうか。彼らみたいに背も伸びて骨もしっかりしたら。
友達同士で来ているらしい高校生たちは大声を上げながらバッティングを楽しんでいる。楽しめていいなあ、こっちはそういうんじゃねえんだよ、とちょっといらいらしつつも、いけないいけないと僕は自分を諫めた。
目的はどうあれ、ボールを打ちに来ているという部分では彼らと僕は同じなのだ。楽しんでいる人に楽しむななんて言うのは僕の身勝手だ。
最後のひとりがこきん、といい音をさせて打ち終わる。やっと僕の番が来た。ほっとしつつ前に進み出ようとしたときだった。
「はーい、次は俺っちね〜」
僕の肩を押しのけるようにして、三人のうちのひとり、最初にバッターボックスに立った男が前に進み出た。他のふたりもにやにやするばかりで咎める様子はない。
え、と一瞬フリーズしてしまった。
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