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episode.2
――お母さんはこれからその虹の国に行くの。そこでずっと、奏のことを見守っているわ。だからそんなに泣かないで。お願いだから笑って。
「……うう」
頭を押さえながら、薄く目を開く。
ぼんやりと視界に映ったのは、グラデーションになった鮮やかな色。足元も、上空も、絵の具のすべての色を少しずつずらして塗ったような色合いをしている。
その目に痛いほどカラフルな色のせいで、空間内の境界線が酷く曖昧になっていた。平衡感覚が奇妙に捻じれ、立ち上がって歩いてみようにも、そもそも真っ直ぐ立つことすらままならない。
「あたし……死んだ?」
天国って、こんなに色鮮やかなところなんだろうか。
それとも――
「もしかして、虹の国……?」
見渡すと、遠くに街があった。目を細めて、よくよく眺める。
たくさんの建造物が密集して形成されたその街は、奏の知っている街というものと大きな違いはないように見えた。一点だけ、この空間と同じように鮮やかなグラデーションになった屋根が、遠くからでもやたらと目を引いた。
あの街には誰か住んでいるのだろうか。
そう思って踏み出した奏の足先が、何かを蹴った。反動でよろめいて、その場にしゃがみ込む。
この色鮮やかな空間にそぐわない、全身真っ黒な物体。
学ランに身を包んだ実広が倒れていた。
「……実広!」
肩を揺すってみたが、反応がない。抱き起して頬を叩いても、目を開かない。
「実広、起きて……!」
睫毛一本動かない実広に段々と不安になる。奏は忙しなく周囲を見渡した。
恐らくここは、虹の国だ。
屋上から落下して、運よくここに辿り着いたみたいだが、予定と違って実広まで連れて来てしまった。実広はまだ目を覚まさない。
「どうしよう……」
やっぱりあの街に行ってみようか。あそこに行けば、母親もいるかもしれないし、ここから帰る方法を誰かが教えてくれるかもしれない。それにもし母親の言う通り、虹の国がみんな幸せに暮らせるところなら、別にここから帰らなくても――
『――おや?』
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