僕は雨粒

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 僕は雨が好きだ。本をひとつ、またひとつとめくっていく時、雫の足音がすると安心する。今僕が部屋の中で、じっと本を読んでいることを、認めてもらっているような気がするから。  僕が母さんや、六人のきょうだいたちと話をするのは、決まって夕ご飯の時だ。 「今日はどんなご本を読んでいたんだい、元太(げんた)」 母さんがこっくんと、真っ白くないご飯と沢庵を飲み込んでから、僕の目を見て訊ねてくれる。真っ白いご飯なんて見たことはないけれど、しばらく前に読んだ本の中で、男の子がご飯は白いと語っていた。 「ちょうどここみたいに小さい村の横にある山が、土砂崩れになってね。村人があぶないっていうところに竜が来て、村人をみぃんな背中に乗せて、安全な、とってもきれいな村まで飛んでっちゃうんだ。だけどね、長老が帰りたいって泣くの」 「そりゃそうだねえ」 母さんは、うんうんと頷いて、きゅうりをぽりっと噛んだ。 「でもね、村はもう、帰れないくらいひどいんだって。そのきれいな村の長老は、どうしても帰りたかったら生贄を差し出して、山を鎮めなきゃいけないって言うの。それで、村人みんなで話し合って、僕より三つか四つ歳上の女の人が選ばれて、生贄として一人で、村に帰るの」 「私だったら、ぜったい嫌だな」 僕より三つ歳上の(さち)お姉ちゃんは、眉毛をぎゅっと真ん中に寄せてお箸を握った。 「伝説の話だから、そんなこと起きねえよ」 いちばん上の権太(ごんた)お兄ちゃんは、僕が本の話をするときまって、めんどうくさそうにする。 「それで、村はどうなったんだい?」 「うん、生贄の女の人のおかげで、元通りに戻ったんだって。だから長老も、ほかのみんなも、また竜の背中に乗って帰ってきて、めでたしめでたし」 幸お姉ちゃんは、納得できないというふうに、 「私はやらない」 とご飯と言葉を口の中でもぐもぐしていた。
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