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人は水の補給さえ怠らなければ、何も食わずとも三日ぐらいは問題なく生きていられる――
――はずなのだが、私は二日でもうすでに限界だった。
「駄目だ。もういかん」
起き上がって流し台まで歩き、水道水をがぶ飲みした。餓死寸前だった身体が、いくらかではあるが、蘇生した。それからかつて身につけていた黒っぽい背広の上下に久しぶりに手足を通し、取り敢えずの威厳を取り戻した。
空っぽの財布と、最近はほとんど使うこともなくなったスマートフォン型の携帯電話をポケットにぶちこみ、両手で頬を叩いて気合いを入れた。
無一文になって丸二日。ついに最終的な決心がついた。
ヤミ金を襲う。
繁華街の雑居ビルの六階に店舗を構える2525キャッシュ。ブラックOK。
免許証と勤務先が明記された給与明細さえあれば誰にでも金を貸してくれる。給与明細は無ければないで、それでも貸してくれる。利息は十日で二割。もちろん違法な金利だ。経営しているのは暴力団神原組。広域暴力団の四次団体だ。
やくざ――
だがそんなことはどうでもいい。2525キャッシュの金利が違法だろうが店の営業利益がそっくりそのまま暴力団の資金源になろうが、そんなことは私にはどうでもいい。私だって連中とは同類みたいなものだ。いや、厳密に云えばついこの間まで正反対の立場だったのだが、対極同士の本質は案外と似ているものである。だから細かいことはあまり考えない。人はあまり多くの事柄を考えすぎると、死にたくなってしまうものだ。私は死なない。生きてやる。
深呼吸をして、タンスの引き出しを開けた。きちんと折り畳んで収納したシャツやパンツを捲ると、スミス&ウェッソンの三十八口径回転式五連発が禍々しい顔を覗かせた。
掴み取った。装填された弾丸を、確認した。
私は、築四十年が過ぎてすきま風だらけとなったボロい自宅アパートを、大股でのし歩いて後にした。
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