雨上がりの泥濘

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扉の向こう側の魔窟。ヤミ金2525キャッシュ、いや神原(かんばら)組という名の魔窟。その構成員たちの顔と名前を、ひとりひとり思い浮かべてみる。 飛田(とびた)。神原組の若頭。季節に関係なくアロハシャツを愛用。人相は最悪。顔面そのものが反社会的。ハッタリをかますということに関してはまさに天下一品。 喜多(きた)。今どき珍しい筋金入りのヘビースモーカー。口から吐き出す煙を輪っかにして空中に漂わせる技能に長けている。 借金を踏み倒そうとした人間ふたりに保険金をかけて殺害した疑いあり。ただし警察はその二件の殺人をいずれも事故として処理している。喜多は2525キャッシュの中で最も危険な男。 西(にし)。無口であまり積極的に他人と関わろうとしない男だ。私はこの男に関してだけは知らないことが多すぎる。だからこの男に対しても喜多同様に油断が出来ない。 六角(ろっかく)。長い頭髪をポマードで後ろに撫で付け、いつも黒シャツと黒スーツに身をかためた伊達男。常に冷静沈着であり、感情をコントロールする術に長けている。 神原(かんばら)。広域暴力団の四次団体神原組の組長である神原は、三次団体の会計係を拝命している。神原はとにかく多忙である。だから自分の城である2525キャッシュには滅多に寄りつかない。 やくざ組織はピラミッドに例えられる。下層の組織の組長は、より上層の組で何らかの役割を担っているのが普通である。極端な例としては、三次団体の組長が二次団体の組長の専属運転手だったりもする。 神原は組織内でかなり信頼されている。本家である三次団体の金庫番を神原が担っているという事実がそれを証明している。 本家の金庫番である神原は、大金を自身の裁量で右から左へ自在に動かせる。この事実は私にとって重要な意味を持つ。神原は利用出来る。利用しない手はない。 私がこんなにまでも2525キャッシュの内情に詳しいのには理由がある――私のかつての職業がそうさせるのだ。
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