雨上がりの泥濘

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「おいこら咲田。チャカ握ってどうするつもりだ」 今さらながら、拳銃に気づいたようである。 「やれるもんならやってみろ」 飛田が啖呵を切った。 私の内なる世界を叩く土砂降りの雨音に、すべての音声がかき消されてゆく。 撃鉄を起こした。レンコン弾倉が、ゆっくりと回転した。 「おまえらに恨みは無いが、四人のうちの三人を殺す。ひとりだけは生かしておく。金庫の金はぜんぶ戴いて、そいつと山分けする。死にたくないやつは俺につけ。ただし先着一名だ」 私は四人のやくざたちの顔を、ひとりひとりゆっくりと時間をかけて見渡した。 「さあ、生き残りたいやつは誰なんだ」 アロハシャツの飛田、ヘビースモーカーの喜多。無口な西、黒シャツの六角。四人のやくざが揃って生唾を飲み込んだ。 * * * * 脳髄を撒き散らした三人の遺体を見下ろした。 まだ銃口から白煙が立ち上っているスミス&ウェッソンを、カウンターの上にわざと音を立てて乱暴に置いた。これは餌だ。 三人のやくざたちの屍を跨ぎ越え、図太く生き残った男と肩を並べながら、金庫の前に立った。 ひとりだけ生かしておいたのは、金庫の扉を楽に素早く開けるためだ。
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