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銃で脅して金庫の暗証番号を聞き出すという泥臭い方法もなくはなかったが、いっそのこと誰かひとりを仲間にしたほうがスマートだし、その後の計画のためにも四人のうちの誰かがどうしても必要となるからだ。ひとりだけを生かしておくのは、決して酔狂ではない。
開いた金庫の中から札束をごっそり奪い取り、そいつとふたりできっちり等分にした。ひとり一千五百万円。金庫の中には三千万円が眠っていた。云うまでもないが、神原組の金である。
組長の神原は不在だ。事務所の金庫が空になったと知ったら、神原はきっと低い唸り声をあげるだろう。怨念たっぷりに。
「これからどうするんだ」
ひとり生き残った男に訊いてみた。
「神原は親分風を吹かしてムカつくし、それに今どきやくざなんかやってても先は見えてるからな。辞め時を探してたとこだったんだ。ちょうどいいや。金持ってどこかに潜る。こんだけあれば一月は遊んで暮らせそうだぜ」
凄みのきいた顔を崩して笑いながら、アロハシャツの飛田は大金入りの紙袋ふたつを抱えて金庫から離れた。
「一千五百万円でたった一月か」
「まあ、半年は遊べるかな」
飛田は私の背後にまわり、カウンターの脇に立った。
「ただしそっちの取り分も頂戴できればの話だけどな」
背後。撃鉄が動いて、レンコン弾倉がガチャリと回る不吉な音が、冷たく響いた。
私はゆっくりと振り向いて、飛田に向き直った。
カウンターに置いたスミス&ウェッソンが、飛田の手中にあった。
「死にたくなかったら金は諦めるんだな、咲田」
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