ダイヤグラム

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 毎朝すれ違う電車。  偶然ではなく、鉄道はダイヤグラムに基づいて規則正しく走るもので、景気はいつまで経っても政府の思惑通りに上向かない我が国・日本は、交通機関の運行の正確性において世界で右に出る者のない存在。おれが毎朝学校に遅刻せず通えているのはその正確性によるものであり、時におれの部屋に押し入って無慈悲に布団を剥いでゆく母親によるものでもあり、悪態づきながらぼさぼさの寝癖姿で朝飯を食うおれ自身の功績でもある。  しかしながら、本当におれの身体を突き動かしている要因はまた別のところにあるのだ。どんなに寝坊をしたとしてもこの時間に家を出なければまずい、そうでないとこの電車に乗ることができない、この電車に乗れなくても学校に遅刻はしないけれど、それでは困る――。そんな気持ちが最後の最後、毎朝おれが(すが)りつく布団という名の桃源郷から強制的に放逐(ほうちく)してくれる。  今日も例によって、電車に間に合う究極のデッドラインで目が覚めて、大車輪の如き勢いで準備をした結果、こうして最寄り駅のホームで電車を待っている。は? 寝坊が許されるのは中学生までですよね? なんだろう、もっと夜は早く寝てもらっていいすか。そんな顔をしながら。  大丈夫、今日もダイヤ通りに動いてる。だから――。
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