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源左衛門は震えそうになる手を抑えながら、細長い方の包みを解いていった。
中にあるのは刀であった。
ゆっくりと刀を鞘から抜く。
いつも目にしてきた刃文が浮かび上がる。
二代目米形光兼の刀であった。
「源左衛門さま」
奥の部屋から出てきた雪乃が声をかけた。
「うむ」
源左衛門は刀を鞘に納めると、雪乃に渡した。
雪乃はいつも源左衛門が帰ってきたときにするように、刀を両手で持ち、奥の部屋に行くと物入れの上に置いた。
刀は三本になった。
再び戻ると、雪乃は源左衛門の隣に座る。
二人の前には小さな包みがあった。
「開けてもよいか?」
源左衛門は雪乃に尋ねた。
「はい」
源左衛門は小さな包みを手に取り、ゆっくりと開いていく。
中には別の包みが入っている。それは源左衛門にも見覚えがあった。
その包みを開くと、中から美しい簪が出てきた。
簪をもう一度包み、源左衛門は雪乃に手渡した。
「お前がこれを金に換えたのはいつだ?」
源左衛門は優しく雪乃に尋ねた。
「源左衛門さまが『甚八』からお暇を貰って五日後です」
「そうか。お前が命の次に大切にしていたものを。私が光兼をなまくら刀に替えたのも知っていたのだな?」
「ほんの少しですけれど、重さが違いましたから」
「そうか。知っていて黙っていてくれたのか」
二代目米形光兼の名はここ赤吹でも知られていたから、刀はいい値が付いた。刀を売ったのは、源左衛門が雪乃と一杯の飯を分け合って食べた翌日であった。
「しかし、誰がこのことを知っていたのか」
源左衛門の言葉に、雪乃も首を傾げるばかりであった。
翌日に源左衛門は刀を預けた質屋を訪れた。刀は売ったのではなくて預けていたのである。質屋には金が入ったら引き取りに来るから、他の者には渡さないようにと言い含めてあった。
質屋のおやじは源左衛門の顔を見るなり青くなった。
「私の刀はどうしたのだ?」
源左衛門の問いかけに、おやじは震える声で答えた。
「昨日、お侍さんがお見えになりまして、藩命で原口様の刀と、ある者が持ち込んだ簪を買い取ると申されました。私はどうしてもその刀と簪は他所の方に売るわけにはいかないと申したのですが、藩の命令となれば、断るわけにもいかず・・・」
「そうか。私は別にそなたを責めているわけではない」
そう言って源左衛門は腰に挿した刀を見せた。
「あっ」
「昨日、私の元に返された。なぜこの刀が私のものだとわかったのかを知りたくて来たのだ」
「さあ、私もその刀が原口様のものだとは一言も申した覚えはございません」
「そうか。で、金はどうした?」
「代金は利子の分と合わせて昨日いただきました」
「うむ」
結局、源左衛門は知りたいことを知ることはできなかった。
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