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瀬名さんと並んで和光の方へと人波を逆行する。
「そう、だ。さっきの、ルールって」
「ん? ああ、だって和光と言えばイブでしょ、俺たちにとっては」
俺たち。俺たちって。
「どうかした?」
ダメだ。何だか今日はどうしたことか、私ったら。
「山口さん?」
顔を覗き込まれそうになって飛びのいた。
「え?」
「ああ、蚊、蚊がっ」
目の前で派手に音をたてて両手を打つと、瀬名さんがいぶかしげに首を捻った。
「蚊? 銀座に?」
「はい、そうなんですよね、何でしょう『銀座のミツバチ』的な、アレですかね」
アハハとから笑いをする。
「いや、でも気をつけなくちゃですよね、デング熱。っていうか、いいじゃないですか、和光。夏バージョンも見たいし」
もはや何を言いたいのかさっぱりわからず、ともかく頭に上った端から口にする。
瀬名さん、知ってます? 海外の中華系スーパーだと、ペコちゃんの横に謎のキャラクターがついてたりするんですよ。そういえば、私、中学の時、なんでかいつもペコちゃんの真似して舌出してたんですよね。そうしたらちょっと気になってたテニス部の男の子に、ペコちゃんってあだ名つけられて有頂天、みたいな。そういえばペコちゃんって何でペコちゃんなんですかね。っていうかポコちゃんもそんなに昔からいましたっけ。ポコちゃんってどう見ても良いところの坊ちゃんって感じですよね。
ともかく息が続く限り、喋り続けた。
「何て名前?」
とっくに不二家を通り過ぎているのに、まだペコポコネタをこねくり回していたら、急に右横から声が降りてきた。
「へ? ああ、ポコちゃんです」
「いや、ポコちゃんじゃなくて。その山口さんが気になっていたって言う男子。テニス部の」
「え? えっと、高村くん、だったかな」
「どんな感じ、その子」
「えーと、そうだなあ。全体に色素が薄い感じでしたね。色白で髪の毛が本当に茶色で、唇が赤かったような。ビジュアル系でしたね、今思えば」
「ビジュアル系……」
気のせいか瀬名さんが遠い目になった。そしてそんな瀬名さんの向こう側に目指す和光が見えてきた。うっすらと緑のベールに包まれている。
「あ、そうか」
「そうくるか」
二人同時に頷いた。
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