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「……それは何よりです」
「山口さんは?」
「え?」
「山口さんは聖トマスから出ないの?」
「へ?」
「うちの小児も結構いいらしいよ」
「じぇ、J大?」
研吾のことはさすがにいちいち瀬名さんに報告したりなんてしなかった。けれど、それよりなにより、J大には瀬名さんがいるじゃないか。
「なーんて勝手にリクルート」
そう軽く言うと、瀬名さんは送るよ、といつものように言った。
「いや、いいですよ。まだ夕方だし」
「でも首痛いでしょ。ほら荷物貸して」
言いながらさっさと肩からバッグと、さっきの湿布の入ったレジ袋(ああわざわざ払ったんだな、と思った)を手に取ったりしている。
「……なんだか介護されてるみたい」
「介護? いやケアですよ、ケア」
「ああ、ケア」
「そう。ナースだってたまにはケア必要でしょ」
ええ、そうですね。痛みがあったり熱があったりする時は特に。でももうずっと独りで、そんなこと忘れてましたけど。
「瀬名さんの」
「うん」
「優しさは罪ですねー、なーんて」
弱っている時のバカさ丸出しで、取り返しのつかないことを口走ってしまった。しまった、どうしようどうしようと慌てたまま俯いていると、
「罪深い俺を許して」
ちゃらさ全開の返しが来た。さすが瀬名さん、ケアの達人。ちゃんと惨めにならないようにしてくれる。
「ちゃらさ健在」
わざと睨み上げると
「生まれ持ったものなんで」
ちゃんとのってくれた。
こう言うところ。瀬名さんは本当にこう言うところだ。
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