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「この新メニューは当たりだわ。見て、このおあげの見事な黄金色っぷり」
咲がベロンとお揚げを持ち上げて見せる。ずぶずぶと余すところなくつゆを吸ったその姿は、文句なく美味しそうだ。
「いや、凄いわそれ。ごはんにも味沁みてるの?」
「勿論よ。甘辛最高か。で、どう、美咲のド定番は?」
「出汁がきいてる」
ドスを利かせたつもりが、あーあのあっさりな感じね、とさっさと流された。
「でもこれ外注なんだよね」
「あ、あたしも同じこと思った。うちの栄養士さんたちの管轄じゃないなって」
んっふ、と咲が虹目になる。
「実咲、何気に栄養管理部の仕事気にすること多くなったよね」
「え、そうかな」
「そうそう。この間だって師長に『うちの管理栄養士さんたちはなんで病棟駐在じゃないんですか』って訊いてたじゃん」
「だってさ、J大じゃ各病棟ごとに一人ついてるし、皆NST(Nutrition Support Team)専門療法士の資格とってるって言うしさ。その辺りうちはどうなってんのかなって気になるでしょ」
「まあ、それはそう。大学病院に先を越されるとか悔しいし。しかもあのクソ崎ごときに」
咲は目を尖らせ、その勢いのまま件のお揚げにかぶりついた。根に持ってるなあ。研吾が異動してもう大分経つのに。
うん、次は絶対きつね丼にしよう。そう心に決めて麺をツルツルとすすっていると、
「瀬名さんを逃すとかありえないから」
さっきの私の十倍もドスの利いた声が飛んできた。
「だから、逃すも何も、お互いそんな感じじゃないんだって」
「30代シングル同士で結構連絡とってて、それで“そんな感じじゃない”ってのが何なのか、私にはさっぱりわかんないわ。しかも聞けば聞くほど素敵じゃん、瀬名さん」
「うん、いやそれはそう。でもそれと、私たちがどうかなるかってのは全然関係ないし」
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