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「もしかして、『ソボ』発言が尾を引いてんの?」
――山口さんって、なんか……祖母みたいです――
――へ?――
――何でもお見通しって言うか。この人の前でウソはつけないって言うか――
あの“タマネギ”での言葉を伝えると、咲は息も絶え絶えに笑い転げた。でも本当はもう少し続きがあって、ちょっとドキッとしたことまでは言わなかった。
――俺、100%信頼してたんです、祖母のこと。多分周りの大人の中で一番。大切でした。だからこの仕事にも就いた――
あの時、瀬名さんの言葉に、勝手に大切って思われたように感じた。でもすぐそんな風に感じたことが恥ずかしくて、それ以来、瀬名さんの言葉に意味を載せないようにと自分に言い聞かせるのが、習い性になった。それに瀬名さんの心の中には、誰か本当に大切な人がいるって気づいていたし。
「じゃなくて。ほんと、会えばわかるよ。瀬名さんって、な――」
「はいはい、『夏空』でしょ。もう何回聞いたか。究極の爽やか君なんでしょ。にしたって34の男なんだからさ、気に入ってなきゃ、そんなにちょくちょく出掛けたりしないって」
咲は女子高校生みたいなことを言いながらニンマリと笑う。
気に入る、ねえ。それくらいなら勿論私だって瀬名さんのことは“気に入って”いる。じゃなきゃ、それこそ日々激務の32の女がわざわざ毎回コーデに時間をかけて出掛けたりしない。だけど気に入ったから何なんだって話で。そんなんだったら、よく行くCAFEのバリスタのお兄さんだって、子どもたちにやたらと人気のある整形の上郡部長だって、いつも挨拶をしてくれる感じのいい医療事務の男性だって、みんな同列だ。気に入って動いていたのは20代まで。体力気力もみなぎって、完徹だってものともしなかったあの頃までだ。
うん、やっぱりそういうことで。
思い切って丼を持ち上げておつゆをずいっと飲み干すと、しっかりとった塩分が体内を駆け巡る気がした。
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