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せ、瀬名さん。それはあまりにも似合わないワードです。
慌てた一瞬後に、でも案外こういうのも瀬名さんなのかもしれないなとも思った。今までなんとなく色々聞いているうちに、この人の、他人を見る観察眼の鋭さや読みの深さに感心することが多々あった。きっと頭の回転の速い人なんだと思う。それに、瀬名さんには、始めから感じている爽やかでちゃらい“オフィシャルな瀬名さん”じゃない、静寂に沈むようなところもきっとある。一人でひっそりと夜の湖畔に佇むような。
「……それを瀬名さんがかってでる、というわけですか」
「そう」
短く答えると、瀬名さんはもう一切れ、パイを放り込んだ。酸っぱいだろうに、ものともせずモグモグ食べている。
「瀬名さん」
「?」
「いいんでしょうか、それ、瀬名さん的に」
「俺的に?」
笑いながら大げさに首を傾げた。
「大丈夫ですか」
真っすぐに見つめると、微笑みがすっと消えた。
「大丈夫」
低い声で頷く。
「本当に?」
「うん」
重ねた問いに、表情の読めない顔で瀬名さんは再度頷いた。
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