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それから後はひたすらお互いのスイーツを食べ、飲み物(私は紅茶、瀬名さんはカプチーノ)を飲んだ。あんずに染まった気持ちのままお店の階段を下りて外に出ると、土曜日の銀座は人でごった返していた。
「うわ、湿気」
あまりのムンムン加減に思わずのけぞると、笑い声が下りてきた。
「日本の初夏って感じ?」
「はい、まさに。でも美味しかったー。あんず堪能です」
「それは良かった。来年までもちそう?」
「はい。この甘酸っぱさ、肝に銘じて一年を過ごします」
肝に銘じてって、何だか山口さんが言うとおかしいな。面白そうな声音で独り言をおっしゃっている。独り言なので放っておいたら、
「じゃあまた来年だな」
今しがた下りてきたばかりの階段を見上げて、軽やかに瀬名さんが言った。
「え?」
「いや、まさかの近々もう一度とか?」
振り返って面白そうに見下ろしてくる前で、手を大げさに振った。
「いえいえそうでなく」
そうでなくて。
来年も、“茶飲み友だち”でいてくれるんですね。
一人でふんわりしていたら、そうだ、と明るい声が聞こえてきた。
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