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◇第1章◇ 二人三脚でレッスン開始
「俺、ずっと先輩のことが好きでした! 良かったらお付き合いしてください!」
俺、中田 怜はたった今、大好きな人に告白をした。
同じサッカー部の先輩のことを、ずっと目で追っていた。引退試合も終わり、いよいよ先輩と接点がなくなるし、気持ちだけでも伝えたいと思ったのだ。
先輩の反応は。
「まぁ……いいけど」
玉砕覚悟だったけど、まさかのオッケー⁈
だがすぐに、付け加えられた。
「俺、いろんな性癖持ってるけど大丈夫?」
せ、せーへき? と首を捻ってしまった。
性癖ってあれだろ? 例えばSMだとか、コスプレしてエッチするのが好きだとか。
そんなのは必ずしも誰だって持っているはずだ。
お調子者の友達はつい最近、服は着せたままパンツだけ下ろしてエッチするのが大好きだと暴露していたし、俺だってあると言えばある。動画を探す時、とあるワードのタグが付いているのかを確認するし。
そう、わざわざ人に言わないだけで、みんなそれなりに性癖はある。全く問題ない。
「はい! それはもう全然、大丈夫です」
「えっ、いや、中田。俺の性癖マジ舐めんなし。ちょっと待ってろ、全部書き出して送ってやるから」
先輩はスマホを取り出して、画面の上で素早く指を滑らせる。
怖い。さっきから先輩の指が止まらないんですけど……。
2、3分してからようやく、俺のスマホに通知が来た。
タップして、ずらっと並べられている文字を辿っていくうちに、手がガクガクと震えてきた。
ま、まさかそんな……!
「な? 俺はお前の想像を遥かに超えてる変態だろ?」
「い、いえ……変態だなんて、そんな……」
一応気を遣ったが、先輩は近年稀にみるド変態であることが分かった。
正直、今の段階では先輩の性癖を完全に理解することは不可能だ。
「だから俺のことは諦めて、普通の人を好きになった方がいいと思うんだよねー。こんな俺を好きになってくれたのは嬉しいんだけどさ」
いや、きっぱり振られるのならまだしも、こんなことで諦めろと言われるだなんて。ずっとずっと先輩のことが好きだったんだ。
そうか。俺がこの変態のレベルに達すればいいだけの話だ。そうしたら俺は問題なく、大好きな先輩とお付き合いができる!
「いえ、ちょっとだけ時間をください! 次に会う時までには何とかしますから!」
俺はその場から駆け出した。
自宅のドアを開けると、弟の貴臣が玄関まで出迎えてくれた。
「兄さん、おかえり」
「貴臣、ただいま」
スリッパを履いてリビングへ行き、ダイニングテーブルに着席した途端に冷たい烏龍茶をスッと出された。貴臣はいつも気が利く。礼を言って中身を飲み干した。
「義母さんは今日夜勤で、父さんも遅くなるみたいです。カレーあるから、適当に食べてって」
「おぉやった、カレー」
「ところで、告白はちゃんと出来たんですか?」
「うん、出来たには出来たんだけど、実は予想外の事が起こってさ」
「へぇ? なんだろう。良ければ聞かせてください」
貴臣は1つ下の義理の弟だ。親が再婚して、ちょうど5年になる。
癖なのか、俺に対して未だに敬語が抜けない義弟だが仲は良い。
貴臣が鷹揚な性格で優しいのが幸いし、たまに些細なことで言い合う時はあるけれど、大きな喧嘩をしたことは未だにない。
初めて会った頃は子供っぽかったのに、高校生になった今は随分と大人びた顔をしていて、いつの間にか背も抜かされ、こっちが見上げるようになっていた。
血は繋がっていなくても、本当の家族であり1番の親友だとも思っているので、心配や相談事はだいたい貴臣に持ちかけている。
今までの恋愛遍歴はもちろん、今回のことについても相談済みだ。好きな人が出来る度に『告白しないときっと後悔しますよ』と、俺の背中を押してくるのだ。
「実は、色んな性癖を持ってるんだってカムアウトされちゃってさ」
「性癖?」
向かいに座る貴臣も、不思議そうに首を傾げた。
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