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こうして、『遣独潜水艦作戦』が実行されることとなった。
潜水艦「伊92」は広島県呉港を出港。
乗員は94人であるが、今回はなんと160人も乗り込んでいる。
艦内はとても狭い。寝台も不足する。そこで、魚雷発射管の一部を撤去し、そこにハンモックを掛けて寝床とした。
魚雷の格納庫も、寝室として使うことにした。
別の潜水艦に移乗するため、こんなに多く乗り込んでいるのであろうことは皆が想像していたが、どこの港でどの潜水艦に移乗するのか、乗り込んでいる本人たちも預かり知らぬことであった。
潜水艦は出港後、すぐに潜行した。
出港情報が漏れないようにするためである。
潜水艦の最大の利点は、その秘匿性にある。
どこにいるのか敵には分からないからこそ意味がある艦なのだ。
出港前には、目的地は乗組員に明かされない。
出港前に明かすと、どこで誰に漏れるか分からないからだ。家族にも秘密である。
潜水して出港し、日本本土から離れた場所まで来て、ようやく、乗組員たちは真相を知ることになる。
艦長は発表した。
「本潜水艦は、ドイツと日本とを往復し、物資や情報を交換する」
ドイツ?
あのヨーロッパのドイツまで行くのか?
艦内はどよめき立つ。
「追加の乗組員たちは、ドイツから移譲されるUボートの乗組員となってもらう。ドイツでしっかり訓練を受け、操縦方法を学んで欲しい」
Uボートの乗組員になる?
これまた、乗組員たちに大きな衝撃を与えた。
ドイツのUボートは、世界最高水準の潜水艦。
その軍事機密の塊のようなUボートを、日本海軍に提供してくれるとは!
そして、新乗組員たちは日本人がまだ誰も乗ったことがないUボートに乗り、それを操縦するのである。
与えられた任務のスケールの大きさに、乗組員たちはただただ驚くばかりであった。
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