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「これを…」 譲右の目の前の、赤黒い染みが残ったそのお守りは兄がくれた烏森神社のもの。 「折れていたので、どうしたものか、と新しいものを、とも思いましたが、きっと大切なものでしょうからこのまま残しておきました」 あの夜の騒ぎで斬られた時に折れたのだろう。逃げる際にどこかに落とした、と思っていたが、佐緒が持っていたとは!  とふいに感情が込み上げてきたのか、受け取った譲右の顔が悲しみとも苦しみとも取れる陰りに包まれている。涙を堪えているのは佐緒にもみつのにもわかった。 そのタイミングに合わせたかのように庭の鹿威しの音が、静かな雨音に重なって響いた。壊れていたはずの鹿威しのその音は、以前と変わりないように涼やかな音に聞こえたが、新しい竹はもう以前とは違う。 「鹿威しを直してくださったのですね」 佐緒は話題を変えるように言葉にして顔を音のした庭の方へと向けた。 譲右もその音に耳を傾ける。 「すっかり壊しちまったんで。こんなお礼しかできませんが、ちゃんと動くようで安心しました。もう日も暮れますんで、あとで止めておきます」
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