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「美しい音色がこの屋敷に戻り、私も友重殿に叱られずに済みます。助かりました。もうここに来てはならん、と言われたら困りますから」
とまた佐緒はふざけたように口を開く。諏訪ほどの男がこんなことで怒るとも思えないし、おそらく佐緒の方が位は上であろう今、彼女の頼みを無碍に断ることなどできないことは譲右にもわかる。
「私とみつのがここにいる間にお元気になられてようございました」
苦笑いをした譲右に佐緒が言った。
「こちらも助かりました。必ずご恩はお返しいたします」
と譲右がもう一度、頭を下げる。
「命を粗末にしないことが、お嬢様への恩返しというものでございます」
頭を下げたままの譲右の耳に優しい声が届いた。
(おやっ?)
と自分の耳を疑い、譲右が少し顔を傾けた。この声はいつも厳しいみつのの声。そして、その言葉を噛みしめるかのように佐緒がかすかに頷いたように見えた。譲右には不思議とその言葉が、この場の全員の心の中にも響いているように思えた。
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