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(私は与えられた運命に従う。でもそれは、あのお方への気持ちと相反するものではない、そのことは私達二人がわかっていればいいこと)
文にしたためた事実を彼が目にしても驚くことはないだろう、と佐緒は思っていた。きっと彼は
「あの姫らしい。だからこそ、惹かれた。心動かされたのだ」
と笑うことだろう。相反する立場ではあるけれど、そこに相反する気持ちはない、それが二人の気持ち。
その真実とわずかばかりの支えてくれる人たちがあれば、いいのだ、と感じている。彼らはそのために自らの命さえ賭けてくれている思えば、自分の不幸を、辛さを口にすることはできない。
佐緒は自分の決意を確かめるように閉じた瞳を見開くと、身支度を済ませた。
朝餉を済ませてから、譲右に別れを告げなければならない。早々にここを出ていってほしい、と。
昼過ぎには佐緒を迎えに籠が来る。
(できることなら先に出て行ってくれていれば…)
と気弱な気持ちがふと湧いてきていた。
しかし佐緒の心配は譲右の使う部屋の前に来た時に消えた。譲右の姿は既になく、部屋の隅にきちんと畳んだ布団が積んであった。誰かが使っていた形跡など見られぬほどすっきりと部屋は片付いていた。
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