私は偉大なる失敗者であり不幸者である

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 どうすれば、人の個性、才能を健全に自由に伸ばせられるか、と考えた場合、この日本社会の在り方は全く不当である。全く間違っている、確かにと自信を持って言えるが、ではどう改革すべきなのか、と言えば、教育システム、殊に学校制度の刷新、ムラ社会の解体、兎に角、日本人の頭に革命を起こさないといけないが、この実現は奇跡を期待するより難しく、極めて不可能に近い宿命的難題である。故に我々はほとんど絶望的な社会に取り込まれて生きているのであって誰も彼も多かれ少なかれ被害者なのである。それに気づかず、この社会に何らの疑問を持たない者は如何にも愚かしい。しかし、そういう者こそが得てしてこの社会に適合し成功しているのである。モンテーニュは素晴らしい結婚は盲目の妻と耳の不自由な夫の間で生まれる、と言ったが、そのような愚鈍な者が幸せ(私からしたら下等な退屈なマンネリな、そして迎合的且つ妥協的な幸せ)に暮らしているのである。斯く言う私はこの社会に全く溶け込めない偉大なる失敗者であり不幸者である。  然るに空気を読んで同調する、これが日本社会に於いて成功する秘訣であるとすれば、これを遵守する方がよっぽど不幸かと思うが、この画一化されがちな束縛された自由なき閉塞社会からの開放を求め、オープンスポーツカーを走らせる私は、益々浮いた存在になる。何しろ私の住む部落には万人受けする普通の車の範疇に入る類を所有する者ばかりだから私はまるっきりムラ社会(私からしたら生き地獄)からドロップアウトした変人に見られてしまうのだ。  S2000はお前らが乗ってる大衆車とは訳が違ってエンジンもミッションもクラッチもデフもサスペンションもボディもシャシーも全て専用設計のF1の技術をも踏襲した、コストの頗るかかった贅沢なスポーツカーと言え、ホンダが創立50周年を記念して造った本気度たるや他の車とは同日の論ではないのだ。だから車の性格上、唯一無二と言え、走らせるのが半端なく楽しいんだ。生産台数も少ないから希少性が高く、マニアの間で人気が高い上、旧車高騰、アメリカの25年ルールの恩恵も手伝って年々資産価値が上がってくんだ。そこいらの事情を何も分からない無知蒙昧の癖に端から馬鹿にしようとするお前らは如何にも愚かしい。ほんとにお前ら、乗ったことないから、ま、乗ってもオートマしか乗れなかったりテクニックがなかったりして分からないだろうが、このドライバーズカーならではの楽しさたるや、オープンカーならではの気持ち良さたるや、そりゃあもう格別なんだぞとS2000の素晴らしさを貧しい心に少しでも届けてやりたくなる時もある。が、S2000が孤高なら私も手前味噌ながら孤高、所詮、俗物には分かって貰えないのさ、と諦観している。  最後に現代日本社会に適合するということは自己を捨てるのと一般であり、自分らしく生きられないのと一般であり、そうして骨抜きにされ、批判精神とかモラルとか人間として大事なものを失い、皆して間違った方向へ突き進む危険性を胎むのと一般である、と伝えておくから肝に銘じてほしい。ま、縁なき衆生は度し難しで分かって貰えないどころか聞く耳を持たぬだろうが…。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加