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13.
こちらの動きの癖を相手が知らない序盤の圧倒的な攻勢の中で、最初に与えられた優勢のうちに致命的な一撃を届けること。
おまえはそれだけに心を注いで突進と斬撃を繰り返す。しかし驚いたことに相手はそのすべてをいなし、かわし、華麗とも言える足運びにておまえの打撃をすべて無効化してしまう。意表をついた下からの蹴りも、剣撃の合間に巧妙におり混ぜた盾による奇襲も。相手はかわして、そしてなんと、ひと呼吸のうちに押し返し、反撃に転じて肉薄してくる。
おまえが見たこともない奇妙な曲線美をもつ相手の剣が、おまえの耳元の空気を切り裂き、かき乱す。
のびてくる! おそろしく、のびてくるのだ。
腕の長さの倍以上、それよりはるかに深く剣先がのび、しなるように撃ち込まれてくる。かわすのが、精いっぱいだ。1つでも当てられたら、崩れる。
おまえは呼吸を止めて刃の軌跡にすべての視覚を集中させる。それを、おまえは、視覚そのものというよりも。肌で、感じる。右! 直後に左にふれて、角度を変えて。
盾で! しのぐ! 今度は左! おまえの体が、自動機械の正確ささながらに、相手の攻勢のひとつひとつを見切り、区切り、分析し、最小限の動きのみで無効化、そしてまた、最短距離にて再攻勢への足掛かりをそこに探った。探った。
しかし。隙がない。驚くほどに隙がない。
速い! そしてのびやかだ。見とれる。
思わず一瞬、その剣の軌跡のつくる瞬時のきらめきに視覚を惑わされたおまえは、装甲の甘い脇腹の一角に、最初の打撃を許してしまう。骨がきしんだ。
が、その程度のありふれた痛みの感覚に、お前の心が揺らぐことはない。おまえはいったん退く。戦術の修正が必要だ。踏み込みのパターンの改訂が急務だ。アップデートせよ。
安全な距離を確保する。時間をかせぐ。呼吸をすぐにととのえる。
ところが相手は―― どうやら笑っているようだ。辺土の戦地にそぐわない、ある種の気品に満ちている、古風な意匠の皮兜の下にのぞく敵の王の口元は、確かに笑っているようだ。
やつめ。楽しんでいるのか。
あなたは奥歯を噛みしめる。噛みしめる。血が出るほどに噛みしめる。
が、しかし。
…なんだ、これは?
そのとき不意に襲ってきたおまえ自身の自然な感情が、おまえの心を驚かす。
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