Dance in the Light (ダンス・イン・ザ・ライト)

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「おもしろいな、おまえは」  思わずこぼれた素直な言葉をそいつにまっすぐ届けながら。黒の盾を高く掲げ、剣の柄に力を注いで最適な角度を見極めながら、おまえはそいつに、またしても、無意識のうちにさらなる言葉を投げていた。おまえはひどくおもしろい、と。 おまえの乏しい語彙の中では、その言葉しか、そこでは探してこれなかったが。おまえの乾いた唇がつむいだその「おもしろい」には、お前が知りたい、見てみたい、熱く輝く遠大な何かが、確かに含まれていただろう。 「そういうおまえは、確かに強いな。アーグバル」  相手の声がおまえに届いたそのときに、おまえはすでに切り込んでいる。光の中に突進している。 世界の誰より速く踏み込む動作の過程のおまえの思考は、記憶をひとつ、時の深みの奥底から引き出してくる。おまえはそれを意識の隅で眺めるのみだ。おまえの動きはあくまで止まることはない。  おまえが見たのは、光の記憶だ。まばゆい高貴な光の中で。おまえはいつか、名前もすべて忘れてしまった大好きだった幼き友と、剣の言葉で、語らっている。おまえと友は、光の中で刃の踊りを。二人だけの高貴な舞いを。心を震わす光の舞いを。踊るのだ踊るのだ踊るのだ。今がいつでここがどこかはもう知らない。旅の途中の光のあたるその場所で、おまえとあなたは確かに出会い、そこで儚い恋を抱いて、言葉をかわして光の季節を二人で踊る。 それが記憶だ。いつかの記憶。それがどこでそれがだれでおまえがどこかは、すべて忘れた。すべては光に満たされて。すべては砂と光と風の中で。おまえは踊ろう。あなたと踊ろう。踊るのだ踊るのだ踊るのだ。おまえを誰より深く知る、砂の王国を統べるその者と。地面の底を這いずって這いずって這いずってきた、血と暗闇と反吐と声なき嗚咽にまみれたおまえが、最後にようやく見ることができた、この光あふれる砂の大地で。おまえの命の価値そのものを誰より深く確かめに来る、目の前で待つひどく好ましいこの敵と。あるいは友と。ともに、二人で、踊るのだ。  さあゆこう、友よ。来てくれ友よ。この広く広く果てしない砂地の光の空の下で。二人で、二人で、二人だけで。世界の深みに、おりてゆこう。そこで踊ろう。他の何もかもを忘れて。ここにいるのは、おまえと、あなたと、どこまでも満ちてゆく純粋な光と澄み切った風だけだ。それ以外には何もない。光と砂が弾けるこの場所で。もしも命が果てるなら。 後悔はない。後悔はない。生きていくことは、素晴らしい。生きていることは素晴らしい。いま息をしていることが、嬉しくて嬉しくてしょうがない。おまえの呼吸。あなたの呼吸。そばに感じて。そばに感じて。その息と体の熱と心の深みを二人でともに抱き合い、ふたりだけの空を見よう。旅の途中で出会ったあなたよ。長き暗き旅の最後にめぐりあい、言葉を交わせた愛する友よ。光の中に立つ友よ。どうか、踊ろう。二人だけの剣を交えて。ふたりだけの空を仰いで。どこまでもゆこう。どこまでもゆこう。そうだ。どこまでも深く遠く、突き抜けて。あなたと二人で、どこまでも。おまえと二人で、どこまでも。
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