Dance in the Light (ダンス・イン・ザ・ライト)

4/16

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
3. 砂谷の王国。そこを統べる蛮族。帝国への帰順を翻した無知無礼なる異民族。  それがいったい正確にはどのようなどこの何者なのか。それはおまえにとっては意味がない。興味すらない。  だが。そこでやつらがおまえを囲んで殺しに来るのなら。何十人でも、即座に殺そう。最速の動き、最短の刃の軌跡でもって。なるだけ多くの敵をその場で斬って大地の塵に還すのだ。そこにある意味は、もうおまえにはわからない。  とにかくだ。おまえはひとつのことしか考えない。  それはつまり。死にたくない。怖い。痛いのは嫌だ。  こんな糞みたいな無意味な世界だが。  おまえは痛みが、おそろしい。おまえは傷つくのが恐ろしい。自分が血を流すのが怖くて怖くてしょうがない。だからだ。自分で自分を護るため。ここで自分が生きて呼吸を続けてゆくために。おまえは、だからこうして明日もまた、殺されるより早く、その先で待つ名もなき誰かを殺すのだ。傷つけられるより早く、名もなき誰かを深く傷つけ、なるだけ多くの血と液を、自分ではないそこの誰かに流させる。  おまえの瞳に表情はない。それは昨夜も今夜も、死そのもののような群青と黒の深みをたたえて沈黙している。そしてその瞳の深みの奥底にあるのは、世界すべてへの憎悪と、この生きるということ自体への侮蔑の炎。あるとすれば、それだけだ。  おまえの瞳が、わずかに視線を上げて夜空に端に向けられた。砂曇りの空には星の光はひとつも見えない。ただただ深い、鈍い暗黒の領域が、際限なく広がっているだけだ。 ――ふさわしい、と。  おまえはひとり、音なき言葉を小さくつむいだ。  ふさわしい。何もないこの暗さこそが。おそらくおまえには、他の何より、ふさわしいものだ。おまえはもう、記憶から抜け落ちた遠い日に、底なき色なき地底にて誰にも知られず生を受け、そしてまた、遠からず―― おそらく明日にも。誰にも肌に触れられることなく、誰にも心を知られることなく。この糞みたいな世界の隅から去っていく。それがおまえだ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加