流青雨(りゅうせいう)

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 絶え間なく夜空を流れる、銀の雨。以前は稀有とされていたが、今では普通になったもの。それでも今宵、願い事に絶好という迷信に誘われて、息子のために展望台へ出かける。子どものころは私も、一筋、また一筋と流れる星を見上げては、頬を紅潮させたものだった。時が止まりますように、あの星の彼方へいけますように、などと、青い願いを込めて。 「ねぇ、月にはいい人しかいないんだよね?」  わからない。月に人間がいるかなんて、その人が善人かどうかだなんて、ましてや兎や蟹がいるかなんて。それでも私は、排煙にまみれた月を見上げて言う。 「ああ、もちろん。母さんは幸せに暮らしているはずだよ」昼夜問わず渦巻く雲も、攻撃的な霧も天界までは届かないという。妻がどこへ行ったのかはわからないが、きっと荒廃したこの惑星よりまともだろう。 「青が見たい」口の端から、ふと言葉が零れた。妻の澄んだ青の瞳、無限の奥行きを感じさせた夏の青空。私が見たい夜空は決して、すすき花火のような光の背景として塗りこめられた、黒ずんだ灰色ではない。発電機の塗装の群青や、しおれた古代の花の瑠璃色には、なんの美しさも幸せも感じられなかった。
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