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8
謎の男はセレスティアルワンドをレゴリスの手に握らせると、射るような目を向けた。
「おい、か弱い女2人を守れない、もっとか弱い虫けら君よお。
何か、裏があるな。
このアレクシス・ブレイブハートに話してみな」
燃えるような蓬髪をなびかせ、獣のようにしなやかな体捌きでにじり寄ってくる。
「殺される ───」
遠くで伸びている2人の女戦士の方へ視線をやると、心細さが手足の力を奪い、腰が抜けて座り込んでしまった。
震える手で郵便カバンをゆっくりと開け、手を差し入れるが、他人の手のように硬直して震え、指が思うように物を掴んでくれなかった。
「今、アレクシス・ブレイブハートと ───」
かすれた声を絞り出し、涙ぐむ目で男を見上げる。
「ん、何か他にも ───」
カバンに手を無造作に差し入れた男は、一通の手紙を取り出して摘まみ上げた。
「何だこりゃあ、字が書いてあるな。
お前、読んでみろ」
ふんと鼻を鳴らしてドカリと腰を下ろし、あぐらをかいて腕組みをして目を閉じた。
手紙の封を切ると、レゴラスは心を奮い立たせて読み始めた。
黙って聞いていた男は、大きく一つ頷き、レゴラスに手を差しだした。
「俺の名は、さっき言ったな。
ライオスのオヤジが言うんじゃあ、お前さんも選ばれた戦士ってわけだ。
何があるのか知らねえが、せいぜい死なねえように守ってやるぜ」
手紙を読み終えると、魔力の炎に包まれ塵になって飛んでいった。
「一緒に来い。
足手まといだが、連れてってやるぜ」
「あの、どちらへ」
「決まってんだろうが、ロダニア山の向こうへ行って、ドラゴンの親玉をシメてやるのさ」
2人の女戦士は、ようやく気がついたのか身を起こし、こちらを見て後ずさりをした。
振り返ると遠くにテイシアの平原が広がっている。
これからどんな冒険が待ち受けているのか。
青く霞む山々は、試練の先にまた試練をもたらすのだろうか。
バイクにもたれかかっていた誠は、暖かい日差しを受けてぼんやりと薄目を開けた。
時々路地を通る車の音が通り過ぎ、雀の鳴き声が耳をくすぐる。
軽く目頭を押さえると、握っていた手紙の宛先を確かめる。
「山田 実様、と」
マンションの集合ポストへ手紙を次々に差し入れていく。
「しかし、変な夢を見たな ───」
手足に疼く痛みに呻き、腰のあたりを擦って、またバイクにまたがった。
スロットルに手をかけた刹那、手紙の宛名に視線を落として手を止めた。
「何だこれは、『レゴラス・グリーンリーフ様』だって ───」
了
この物語はフィクションです
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