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 テイシア城の最上階からは、遠くの山々が青く(かす)む。  人払いをした執務室には、2人の男が立っていた。  外を眺めていたのは白髪の老人だが、両眼には赤々と燃える光を(たた)え、ギラリと見据(みす)える威圧感は心の臓を鷲掴(わしづか)みにするような迫力だった。 「国王、ライオス様、例の手紙を、(まこと)の心を持つ者へ、セレスティアルワンドと共に(たくす)しました」 「バルドルよ、アレクシス・ブレイブハートは、今どこにいるのだ。  やはり、ワシ(みずか)らが出向いた方が ───」  腰の宝剣を(はだ)いた手を止め、(つか)にかけた。  かつて最強の勇者と呼ばれ、伝説の幻獣たちとも渡り合ったライオスならば、単独で出向いても良いのかも知れない。  実際、大型モンスターが闊歩(かっぽ)するロダニア地方へ、ふらりと出掛けて行ってしまっていた。  ため息をつき、身を案ずるというよりも、いつもの決まり文句を抑揚(よくよう)なく繰り返すのだった。 「国王陛下が激戦区に出向けば、敵の的になりますぞ。  作戦遂行(すいこう)の妨げになるばかりか、軍の統制を乱しかねません」  今度はライオスがため息を吐いて肩をすくめた。 「アレクシスは良い戦士じゃ。  だが誤解をされやすい性格が(わざわい)して、単独で戦っておる。  『武』に純粋すぎるのだ ───」  物憂(ものう)げな言葉とは裏腹に、口元には笑みを浮かべていた。 「さすがのワシも、そろそろお迎えがくる歳だ」  ふっと、目に湛えた怒気を消し、影が差した老王は椅子に腰かけるとバルドルにも勧めた。 「そんな弱気を(おっしゃ)っては ───」  テーブルに置かれた剣の宝玉には、燃えたぎる炎がゆらめいている。  火の属性を極め、最高レベルの魔力と俊足、そして膂力(りょりょく)を持って振るえばたちまちすべてを灰燼(かいじん)に帰す。  この世で最も強い戦士は、魔法を極めた魔導師でも、肉体を極限まで鍛えた剣術士でもなく、魔力で鍛えた武器を(たずさ)えた、すべてのバランスを体現した戦士なのである。 「アレクシスは、乱世そのものだ。  時代を駆け抜けるために生まれ、散っていくのではないかと心配でな ───」 「国王陛下、この地上には伝説の勇者ライオスに匹敵する者などおりません。  ですが、若い者たちの成長を信じてください」
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