第5話 歴史的に見て「五人組」という名の集団が良かった試しはない

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 凶悪な程の色のコントラストをなしているだろう、ぬるつく床に両手をついて身体を起こした時、彼は自分の銃とナイフが無くなっているのに気がついた。    地下牢だな。  窓もなく暗く、空気もかび臭く澱んでいる。目を凝らす。波長を赤外線に切り替えて、視界をはっきりさせる。  さすがに色は判らないが、壁のひび割れや水道管のゆるみは確認できた。  昔と変わらない。いや昔よりひどくなっている。十二年前よりひどい、ということは、直す気もねえな。  彼にとって好都合ではあった。  軍服の状態を確認する。さほど手をつけられてはいない。どうやら自分が「軍警のコルネル中佐」とまではまだ確認されていない。対応が遅い。  彼は胸ポケットを探り、煙草とライターが兵士からも水からも無事であることを確認した。  フィルターの色を確認し、一本をくわえた。  壁に背をもたれさせて火を点けた。煙をふかしながら、彼は天井に入った四角い切り込みを見上げた。  地下牢の入り口と出口はそこ一つしかない。  かつて自分はきっちりそこから脱出したものだ。  だが同じ手を使って出られるという保証はない。そして当時と違い、現在の彼にはもっと楽な方法があった。  とりあえずは、上より横を選ぶ。牢の入口出口は、階上一つしかなかったにせよ、地下自体が他の目的で使われていない訳ではないのだ。  こん、ともたれた壁を軽く叩いてみる。材料費をケチったために腐食が始まっている鉄筋コンクリートの音だった。  彼はしばらく、何かを確かめるようにぬるつく壁に触れていたが、やがて一つの箇所でその指を止めた。そしてその場所を、やや加減して殴りつけた。  ぼろ、と腐食したコンクリートの一部分が欠け、こぶし大くらいの穴がそこに空いた。  触れてみる。さすがに内部まで湿りとぬめりはさほどに広がっていないようだった。  彼はシガレットケースから、薄い赤のフィルターの一本を取り出す。  火を点け、先程空けた穴の上に置く。  そしてゆっくりとその場から遠ざかる。  十秒後、壁は音を立てて爆破された。  彼はそれを確認すると、吸っていた煙草をぬるつく床に投げ捨てた。煙草は床の水気にじゅ、と音を立てて消えた。  案の定、壁の向こうには蛍光灯の光が満ちていた。視界を可視光線に切り替える。  クリーム色の廊下が長く続いている。人気は無い。  廊下のワックスのすり減り方が少ない割には、片隅にほこりが丸く固まって、まるで生き物のようである。地下牢ほどではないが、空気も湿っぽい。  だが全くの安全という訳でもない。階段をかけ降りてくる足音。どうやら爆発の音に気付いたらしい。  何人だ?  彼は耳を澄ませる。違うテンポが三つ。物陰に隠れ、近付いてくる兵士達との間隔を測る。階段の一番下の段に、着地する音。ほんの少しだけ響きが違う。  素早く飛び出して、順繰りに当て身を食らわせる。三人ともまだ若い兵士だった。銃とナイフを奪い、階段を昇り始めた。  治安維持部隊の建物は、田舎の惑星にありがちな背の低い旧式なビルである。  かつては開拓地元軍の持ち物だったらしいが、現在は徴収されて中央軍の管轄となっている。攻略すべき場所がそう大きくないことは、彼にとって好都合だった。  最新資料は既に頭にある。表向きの大目標は、最上階。そして裏の目標は―――
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