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彼はカーマイン市郊外に生まれ、クリムゾンレーキの普通の青年が送るコースを順当にそれまで生きてきた。
そしておそらくこれからも、順当に、穏やかにこのまま日々を送っていくのだろう、と考えていた。
裕福ではないが、かと行って貧乏でもない家に生まれ、技術中学を卒業後、士官学校へ入った。
実技は上等、だが全体の成績をトータルすると中の上の成績。何とかそれでも一つも落第することもなく順当に少尉になった。
真面目な仕事ぶりが効を奏して現在は中尉。両親は健在、妹はこれから好き合った男と結婚する。
自分は幸せなうちに入るのだろう、と彼は思う。上官もいい人だ。
たった一つの気がかりを除けば。
「ところで***中尉」
「何ですか」
「例の話は考えてくれたか?」
彼は顔を軽くしかめる。気がかりはこれだった。
「例の件に、参加するか、ということですか?」
「そうだ」
「それだったらお断りしたはずです。興味はないですから」
例の件、とは。それは「ちょっとした活動」だ、とローズ・マダーは彼に説明していた。
「大尉のおっしゃることは理解できます。確かに現在の中央軍の兵士の我々地元軍に対する対応は決して良いものではない…… だけどだからと言って、言葉ではなく行動で抗議するというのは」
「角が立つのは困る、と言う訳か?」
はい、と彼は素直に答えた。それは彼の本音だった。
「だって大尉、これは…… クーデターってことじゃあないですか?」
クーデター、という言葉で彼はトーンを落とした。滅多に軍人が言ってはいい言葉ではなかったのだ。
「だがな***、これはクリムゾンレーキ全体の問題でもあるんだぞ」
またか、と彼は思った。
ローズ・マダーは決して悪い人ではない。だが、問題を大きく考えすぎるところが彼は気になっていた。何かが引っかかるのだ。
大尉はこぶしを握りしめて力説する。
「中央軍の方へ派遣されていた間、それはずっと私の中でくすぶっていた……」
彼はうんざりしながら、いつものように始まった話を聞き流していた。聞きながらも彼は、何処で会話を切ろうか、とずっと考えていた。
だがずるずると話は続く。
ある程度で、その区切りは掴めるはずだった。ところが、その日は別だった。いつもと違う言葉が、出てきた。
「実は、コーラルはこの計画に賛同してくれたんだ」
「コーラルが?」
コーラル中尉は、彼の同期だった。彼より実技は弱かったが、全体的な成績は彼より上で士官学校を卒業していた。
「彼からも一度話を聞くといい」
ローズ・マダー大尉はそう言い残すと、珍しく自分から話を切って行った。
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