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彼は不思議だった。ひどく不思議だった。
結局、参加するともしないともはっきりさせないままずるずる時を過ごしている間に、彼の回りは勝手に、次第に盛り上がっていってしまった。
それは彼の直接の部下である下士官にしてもそうだった。上官が「参加」しないと聞くと、今度は彼らが彼を説得しに来る。
「何故ですか?」
年上の伍長は言った。
「賛同できることではあるけれど、直接行動というのは」
「臆しましたか?」
違う、と彼は言う。だがそれ以上の理由が見つからない。賛同する程の意志はない。だが否定するだけの理由もない。
結局ずるずると、彼は「仲間」に引き入れられてしまった。
ところが、である。
計画は発動前に終わってしまう羽目になった。
理由は二つあった。
その一つは、クリムゾンレーキにとある皇族が視察に現れるという事件だった。
その知らせを受けた軍警は、それまでなあなあに見過ごしてきた惑星クリムゾンレーキにいきなり目を向けた。
するといつの間にか大人しい羊達は、何やら怪しげな相談をしているではないか。街にはポスターが張られ、放送局では毎日何やら軍の若造達がはしゃぎ立てている。
無論そんな事態を軍警が見過ごしている訳にはいかない。少なくとも、その皇族がやってくる前に。
そして理由の二つ目は、発案者自体が所詮ノンポリだったことにある。
ローズ・マダーは結局はただの不平分子に過ぎなかった。
彼がローズ・マダーに引っかかっていたのはその部分だった。言っていることが判らない訳ではないが、一貫性がないのだ。
ところが彼が「何故」そうであるのか看破できなかったように、他の兵士達もそれを見破ることはできなかった。
この地の人々は、基本的に人が良い。そして熱しやすく冷めやすいのが特徴である。
確かにそうだろう。そうそう人を疑うことも必要ではなかったし、それは不徳とされてきた。穏やかで、礼儀正しく、そして明るく熱しやすい。
悪い気質ではないが、中央の毒に多少なりとも触れてきた者にとって、扱いやすいものであることは間違いない。
それがローズ・マダー程度の小物であったにせよ。
その頃、熱しやすい民衆は、繰り返される情報や、所々で行われるアジ演説、ポスター、集会といった彼らにはそうそう縁の無かったはずのものによって、盛り上がりつつあった。
そして彼は、その中で、活動に一応の参加をしながら、奇妙に不安を覚えている自分を感じていた。
ポスターを張りながら、車で地方を回りながら、ずっと彼は感じていた。
―――何かが違う―――
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