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その知らせを受けた時、彼は自分の耳を疑った。
何とかひと段落ついた、と彼は久しぶりにマンダリン街の実家で食事をしていた。妹は嫁いでしまったのでいなかったが、両親は騒乱が治まったことを喜んでいた。彼らもまた、穏やかな生活を心から望む者であったのだ。
収穫したばかりのかぼちゃのパイは、いつにも増して甘味が濃く、とろけんばかりの美味しさだったし、夏中元気で跳ね回っていた鶏は、実に弾力多くみずみずしい味になっていた。
そんな折、彼は両親に言った。
「俺、軍を辞めようかなって思うんだけど」
両親は一瞬顔を見合わせた。
「士官学校まで出といて何かと思うかもしれないけど」
彼は言葉をにごした。だが両親は彼の言わんとするところをすぐに理解した。
「そうだね。こんなことで何かと騒がしくなるんだったら何も居ることはないね」
「構わん構わん、畑もあるし、食べていくくらいは何とかなる!」
「そうだね」
彼はそう言ってくれる両親がありがたかった。そして騒ぎがひと段落したら辞表を出しに行こう、と思った。
その時だった。
扉ががんがん、と大きく叩かれた。
母親は食卓を立って、戸口に出た。扉の向こうには、息子と同じだけの星を肩と襟に付けた軍人が居た。
「コーラル? 何だこんな時間に」
そこに立っていたのはコーラル中尉だった。
いや、彼だけではなかった。後ろに何名かの兵士と――― そして黒星をつけた士官が居るのが彼の目に映った。
嫌な予感がした。
黒星を付けた士官がコーラルより一歩前に進み出た。そして一枚の紙を彼に突きつけた。
「***中尉、貴官を騒乱の首謀者として逮捕する」
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