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そして現在に至ってもその気持ちは変わっていない。
だが生きたい、という実に原始的な感情が強烈になるにつれて、行動に罪悪感が無くなってきたのも確かだ。
仕方がないだろう。既に自分は人間とは言い難いものになっている。
脳以外の全てが、人工部品に変えられているのだから。
使っている脳が自前のものでなくなったら、それは生体機械と同じだ。
「珍しいな」
赤い髪に触れてくる手を、ふっと彼は掴んだ。同じ手だ。人工物の。
「あんたが結構疲れているようだからさ」
「そうかもな。俺もお前のように疲れること知らない方が良かったかな」
「冗談はよそうぜ」
キムは笑った。だがそれはいつもの陽気なそれではなかった。生き残った最後のレプリカント―――メカニクルではない―――は、ほんの時おりにしかそんな表情をしない。
詳しくは彼も知らない。
だがMによると、何でもこの連絡員は、220年前のレプリカ狩りの際に生き残った「標本」が意識を取り戻したものだという。
自分を引き取った時のように、きっと盟主は、このレプリカの意識を察知して、再機動させたのだろう。
そのあたりのことはキムは言いたがらないし、彼もまだ聞く気はなかった。
とりあえずは。
彼は掴んだ手を引き寄せた。
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