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心の中は
咲の心の中はいつも雨が降っていた。
小学校に入る前に男を作って家を出てしまった母親は最初のうちは一週間に一度くらいは家に戻り、お金だけおいてまた出て行った。
咲は寝込んでいた祖母の面倒を見ながらそのお金で何とか生活をしていた。
父親は生まれた時にはもういなかった。病気で咲がはあ親のお腹にいる間に亡くなってしまったのだ。
寝込んでいるのは父方の祖母であり、先が生まれた頃、父方の祖父が亡くなった。他に身寄りがなかったので引き取ったが、その後、すぐに寝たきりになってしまい、咲の母親はそれでもしばらくは面倒を見ていたのだった。
咲が少し大きくなって、祖母のおむつを替えられるようになると母親は家を空けることが多くなった。
そして、今の状態だ。
今回は母親はなかなか帰ってこなかった。おいて行ってもらっらお金は既に無くなり、咲は水とマヨネーズで空腹をしのいだ。
幼稚園の先生が心配して訪ねてきた時には、すでに祖母の息はなく、咲もなんとか家の鍵をあけられたが、そのまま倒れ込むほど弱っていて、そのまま病院に搬送された。
もう来年小学校だというのに3歳児程度の身長や体重しかなかった。
咲が知らない間に役所の人が母を探し出し、祖母のお葬式は出したようだった。
咲は楽しいこと等これきりないのだと思いながら病院で過ごしていた。
幼稚園で読んだ絵本で、雨上がりの虹がとても綺麗な絵本があった。
虹は雨上がりにお日様が出ると見えるのだと書いてあった。
咲の心の中にお日様が見えたことはなかったし、雨が止むこともなかったので、咲は『きっと私には虹なんて見えないんだ。』と思いながら過ごしていた。
病院から出た咲は、母親の元へは返されることなく、児童養護施設に入った。
これまで大人もいない静かな場所で過ごしていた咲には驚くほどの賑やかな場所だった。
いつも誰かが泣いていて、誰かが怒鳴っていて、誰かが喧嘩していた。
咲の心にはここでもずっと雨が降っていた。
咲には表情がなかった。涙を流すこともなかった。
ずっと虐待を受けていた子供はこういう表情になることが多かった。
『凍り付いた瞳』と呼ばれるものだった。
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