15. 宿題

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 そして、夕方、フランソワの部屋にはアゲハとバルトラ中将がいる。フランソワの顔色は以前よりだいぶ良くなっていた。アゲハは治療として睡眠薬の使用はもちろんの事、気を整える薬膳料理を準備したり、安眠できるように香を焚いたりと様々な事を毎日行なっている。    アゲハとバルトラはフランソワから今朝の夢の話を聞く。夢は日常の記憶の整理と言われているが、フランソワの夢の話はこの世界の話ではなく、でもその話は具体的で、しっかりとしたあらすじがあった。東方で育ったアゲハには、そういった神秘的な話には思い当たる節がある。  「フランソワ様、私が生まれた東方では、前世からの宿題が誰しもあると言われています。もしかしたら、フランソワ様の夢は宿題を示しているのかもしれませんよ」  フランソワはベッドの上で起き上がっており、二人はその傍で立っている。  「宿題……?」  アゲハは笑う。笑う事で自分の発言を軽くした。    「あまり鵜呑みにはしないでください。東方の伝承の一つですので」  バルトラ中将が真剣な表情でフランソワに報告する。  「フランソワ様、宿題といえば、こちらは本格的な宿題、ではなく問題です」  「どうした?」  「グレース様が、セニ嬢から薬を買えなくなった者につけ狙われているようです」  「何だって」  「すぐに春学期が始まります。近衛の仕事を手伝わせた我々の責任ですので、若い近衛兵に生徒のフリをさせてグレース嬢の護衛としてつけさせて頂きます」    「……いや、俺が戻る」  フランソワの発言に、バルトラ中将は体調を考慮して強く反対したが、アゲハは真逆の意見だった。  「ぜひ、フランソワ様がグレース様の元に行かれるべきかと」  バルトラ中将は医師であるアゲハの判断に困惑している。  「何を言ってるんだお前は」  「もしかしたら、その方がフランソワ様の不眠が治るかもしれません」  アゲハはフランソワに微笑んだ。  「グレース様よりご伝言をお預かりしております」  「何だ?」  アゲハはフランソワの耳元まで顔を近づけて囁く。  「いつまで隠れてんだ、このヘタレ」  フランソワの目が点になり、微笑むアゲハをしばらく見つめてから我にかえった。    「あ゛? なんだと?」  「私ではありませんよ。グレース様からです」  フランソワの目がいつもの鋭い目つきに変わり、額の血管を浮き上がらせている。  「フランソワ様、グレース様は、もう一つおっしゃっておりました」  「もういい」  「いえ、ちゃんと聞いてください」  アゲハはもう一度フランソワに耳打ちする。    「ビリーに会いたい」  フランソワの顔がみるみる赤く染まり出す。アゲハはその様子を見て嬉しそうだった。  「貴方の愛する方は夢の中ではなくて、現実にいらっしゃいますよ。その方のために夢を克服しようと思えば、もしかしたら眠れるかもしれません」    その晩、フランソワは睡眠薬は使わずに、悪夢を覚悟して自ら眠りについた。  夜中にうなされて目が覚める。だが夢の内容が今までと少し違った。  「前世からの宿題……」  フランソワは静かに考え込んだ。      
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