しおくり

3/4
前へ
/4ページ
次へ
※  セミがひときわ大きく鳴いた。ダンボール箱を前にボンヤリとしていた僕は我に返る。 「あれからもう五年か」  しみじみと口にしてから、 「何も変わらないや僕は」  力なく笑う。母さんとの今生の別れを迎えたあと、実家を出た僕は今も一人暮らしを続けていた。 「これって仕送りだよな……もう死んでるのに何で?」  改めてダンボール箱の中身を確認する。 「それも塩気が濃いやつばっかり」  塩飴に梅干し、塩鮭の切り身の真空パック、極めつけはお徳用塩昆布。 「熱中症対策のつもりかな? でもさすがに多過ぎるよ」  腕を組んで首を捻っていた、その時。 「……ん?」  先ほど荷物を届けにきた配達員が再び姿を現した。 「君はさっきの」  配達員はその場にしゃがみ、ポケットを探った。こちらには目もくれずに配達員はライターを鳴らすと、 「確かに届けたから」  僕の墓前に線香を立て、呟いた。 「父さんのために」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加