前書き

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 この物語は、主人公の女性が亡き夫に届けたかった切なくも温かい想いを、燈籠流しと送り火を通じて紡ぐ、京都の風薫る一篇である。――――  夏の風物詩となる祇園祭が終わり、京都の街に静寂が戻った八月。今は亡き夫の供養のため、美咲は愛娘の由香と一緒に、お精霊(しょらい)さんと呼ばれるお盆の準備を始める。祭りの後の静けさの中で愛する人を偲ぶ時間は、京都で生きる彼女にとって何よりも大切なひとときだ。  桂川の流れに灯籠のあかりが揺らめきながら近づくと、四年目にして再会が叶う。灯籠流しが終わりを迎え、左大文字の送り火が見えると、祐介の魂を送り出す別れの時が訪れる。  美咲は娘と手を合わせ、祐介に伝えたかった熱い想いを心から語りかけた。想いを伝え終えると、彼から思いも寄らない返事が戻ってきた。  その言葉に美咲の心は揺れ、複雑な気持ちを抱えながら家路に向かった。彼女の目に映る景色はどんなものだったのだろうか……。
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