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 屋敷の使用人も穏やかそうだ。前からいた使用人をそのまま雇ったようで、職を失わなくてよかったですと喜んでくれている。いたせりつくせりだったがただひとつ。 「んー。このベッド、僕はいけると思うけど、サミュエルが狭いかな」  寝室にはベッドが二つ並んでいるのだが、体の大きいサミュエルには少し窮屈そうだ。学生寮の時も特注のベッドを使用していたぐらいだ。市販のベッドではサイズがあわないのだろう。 「そうだな。ベッドはひとつでないといけない」  え?そういう理由じゃないんだけど?でも家具を自分で選んだことがないから買いに行くならついていきたい。 「買いに行く?」 「うむ。せっかくアルが同行してくれたのだ。できれば毎夜()でたいからな」  めでたい?新しい屋敷が手に入ったからおめでたいのかな?宿舎じやなく、ここならゆっくりと毎晩眠れるってことかな? 「そうだね。僕も嬉しいよ」  サミュエルがぎゅつと抱きしめてきた。使用人達が見てるから恥ずかしいよ。 「ご主人様はとても情熱的な方でいらっしゃるのですね。前の主人も仲むつまじい方でいらっしゃいました。この屋敷はそういう方をお迎えする場所なのかもしれません」  使用人達が笑顔で嬉しそうだ。ちょっと恥ずかしいけど見守ってくれそうで安心した。 ◇◆◇  目前では家具職人達がたくさん働いていた。工房にお邪魔するのは初めてで、なんだかワクワクする。皆真剣に仕事をしていて木の香りが充満していた。どの職人も自信をもって作業をしているように見える。 「俺のサイズに合うベットはあるか?」  サミュエルがここの責任者に問いただしていた。 「お客様はなかなか体格がよくていらっしゃいますねえ」 「急ぎなのだ。今晩から使える大きなベッドはないか?」 「ちょうどキングサイズのベッドがひとつございますが、まだ飾り掘りや塗りなどの工程が終わってないものでして枠組みしか出来上がってないのですが……」 「それで構わない。だが、マットレスはスプリングがよく弾むやつにしてくれ」 「へ?マットと言いますと新婚……でございますか?」 「……まあ、そういうことだ」  そこで王都に別邸を持ったので寝具が必要な事。今後も領地から王都へ頻繁に通う事を説明しここの家具が気に入ったことを伝えた。 「かしこまりました!そういう事なら私どもの家具の作りは頑丈ですのでいくら跳ねても大丈夫でございますよ」 「そ、そうか」 「ただ条件があります。職人として未完のままお客様にお渡しするのは心苦しいものがあります。数日後に領地に戻られる前にまたこちらにお戻しくださいませ。完成後に屋敷に再納品いたしますので」 「わかった」 「お話終わったの?」 「ああ。とりあえず今日中に運び込んでもらう」 「そっか。良かったね。僕もベットカバーと枕を選んだよ。ここのベットカバーは肌触りがよくて柄も豊富なんだ。あれこれ迷っちゃうよ」 「そうか。ベットカバーは2枚……いや5枚もらおうか」 「え?そんなに買っていいの?」  嬉しい。あれこれ迷って諦めてしまった柄があったんだ。色違いもいいな。王都はやっぱり品数が多い。領地用にも買おうかな。 「ああ。必要になるだろうから」
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