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7-1 角部屋の別名*
卒業が近くなり僕らはそれぞれの道を考える時期となった。あるものはそのまま領地に戻る予定だったり、ある者は王宮を守る近衛に選ばれたり、ある者は討伐や治安を守る騎士団に所属したりとあわただしく動いている。僕らも例外ではなかった。卒業後の進路が待ち構えているのだ。
サミュエルとは仲直りができた。前ほどゆっくりと話しはできないが一緒に食事をしたり朝や夜の挨拶はできている。
たまにキスをされるがそれはきっと高位貴族の間では信頼の置ける者への挨拶なのだろう。同部屋で無防備な状態で一緒に居られる者として認めてもらえたのかもしれない。ありがたいことだ。
「サムってすでに騎士だったんだね?」
「ああ」
サミュエルはすでに騎士の称号を手に入れていた。あれだけ鍛錬をしていたんだ、当然の事だと思えた。
「近辺の討伐などに参戦もしていた」
「そっか。だからときどきいなくなっていたのか」
それに今まで朝早かったのや戻るのが遅かったのは、騎士団の早朝の鍛錬や夜の見回りに自主参加をしていたからだった。目立つことが嫌いなサミュエルは周りに気づかれない様に行動をしていただけで騎士団からはすでに何度も勧誘されていたのだ。
「称号を保有できる資格だけは持っていたからな」
彼は公爵家の血筋で早くからその資格を保有していたらしい。つまり僕よりも爵位は上なのだ。改めて自分とサミュエルとの立ち位置が見えてきた。自由を校風としている学園の中だからこそ対等に話せるが、今後は気軽に話しかける事も出来なくなるのだろう。
僕は兄達と違い逞しい体形でもないし剣筋が良くても体格的な面で見劣りしてしまう。このまま卒業したらどこかの貴族との婚姻もありえる。僕は三男だから嫁ぐ方になるのかもしれない。そうして家名や縁組を繋いでいくことには僕も理解している。ここに入学したのはもしかしたら騎士になれるのかもしれないという淡い期待と、ただの時間稼ぎに過ぎない。
それよりもサミュエルとはもうすぐ離れ離れになってしまうことが心残りだった。
◇◆◇
今日は朝から豪雨で鍛錬にでかけず、サミュエルはソファーに座って本を読んでいる。久しぶりに一緒にいるのが嬉しい。当り前のように過ごしていた時間はかけがえのないものだった。僕は本を読むのが好きで、いくつか読みやすい本を勧めてから彼も本を読み始めた。
嵐が近づいてるようで午後からの剣技も今日は中止で自習となる。僕はそろそろサミュエルの小腹が減ってくるのではないかと食堂からおやつと飲み物をもらってきた。サミュエルはまだソファーで本を読んでいる。僕はそのまま彼のソファーの隣に座って寄り掛かった。
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