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10-2
「かなりの資産家の侯爵家がお前を欲しがっている」
「そんなの聞いてない……」
「子爵殿も悩んでられるようだ。あの、ジュリアンとかいう子の家らしい」
「ジュリアンってまさかあの? どうりで取り巻きが多いと思った」
食堂でアルベルトに声をかけてきた子の親が侯爵家だったらしい。
「爵位的には侯爵よりも俺の父親の公爵のほうが位は上だ。だから父に頼むしかなかった」
爵位順にしたら公爵・侯爵(辺境伯)・伯爵・子爵・男爵の順になる。サミュエルは皆の前では爵位を明らかに公言してなかった。ジュリアンはサミュエルが公爵家だと知らなかったのだろう。
「そうだったのか。でもサムは良いの? 公爵家から離れてしまって」
「最初から離れるつもりだったんだ。爵位なぞ俺には関係ない。煩わしいしがらみに縛られるのは嫌だ。守れるものと剣術があればいい」
守れるものってそれって僕のこと?
「僕は守られるだけは嫌だよ」
「くくく。そうだな。俺はそういうお前の気の強いところも気に入ってるんだ。今後は俺と共に領地経営に手を貸してくれないか」
領地経営! なるほど面白そうだ。
「僕は細かい手作業なども好きなんだ。いろいろ作物の栽培とかもしてみたいよ」
「ああ良いな。アルならいいアイデアを出してくれそうだ。アルは美しく果敢で、それなのに繊細で世話好きで。母のようだからな」
「母?」
「いや、その。俺には母親の記憶がないんだ」
「そうなのか……ん? それって僕がおかん体質ってこと?」
「おかんというのがよくわからんが、アルといると俺が癒されるのだ。アルが好きだ。アルと離れたくない。アルが笑うと俺が嬉しいのだ。アルを誰にも渡したくない。アルの剣さばきも華麗で素晴らしい。アルの……」
「わ、わかった。わかったから」
次から次へと出てくる惚気言葉に心臓がバクバクする。なんだいったい。サミュエルってばこんなに恥ずかしい事をいうやつだったか?
「俺がアルベルトを幸せにしたいんだ!」
「……なんだよそれ。恥ずかしいよ。サミュエルの……馬鹿」
「ふふ。そうだな。アルの前だとどうやら俺は馬鹿になるらしい」
僕はぎゅっとサミュエルに抱きついた。
「どんなサミュエルでも大好きだ」
「俺もだ」
「二人で幸せになろうね」
「ああ」
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番外編を挟んで2章へとつづく
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