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第二章:辺境伯は溺愛中 1-1マリッジブルー
いよいよ卒業間近となった。サムの考えでは卒業と同時に教会に行って式を挙げるつもりだったらしいが、そんなにうまくいく話でなかった。
3日後の卒業式に出席するために各地から生徒の家族が王都へと集まっていた。今、俺たちの前にはサミュエルの父親であるレイノルドがいる。
「サミュエルよ。お前卒業後はすぐに辺境地に行って騎士団誘致のために動き回るのだろう?その間はアルベルトが屋敷を采配しないといけないようになる。学生が卒業したからと言って急に主になれるわけがないだろう。それにお前はここよりも険しい道を選んだのだぞ。アルベルトにも考える猶予を与えるべきだ!」
まったくもって……そのとおりだった。正論過ぎて言葉が見つからない。勢いのまま婚姻しても僕自身どうすればいいのか右も左もわからない。だからと言ってサミュエルに頼り切るのも嫌だ。自分の力で出来ることはしたい。
「父上。俺の意思は変わらない。俺の伴侶はアルだけだ。でも見も知らぬ場所でいきなり領主の伴侶になれというのも酷な事だと理解はした。だから、父上の意見を取り入れて一筆書き込むことにする」
「ほほお。お前も少しは大人になったのだな」
「アルベルトに見合う男になるためだ」
「はははは!言う様になりおったわい」
「はあ?」
まただ、この二人は通じるところがあるのだろう。僕や周辺の者を取り残して勝手に話を進めてしまう。
「いい加減にしてください!婚姻は二人でするものです。僕の意見も聞かずに進めるならなかったことにしていただきますよ!」
僕は踵を返して部屋を飛び出した。
「ま、待て!アル!すまない!つい……」
サミュエルが背後で叫んでるが無視して走って逃げてきた。まったく人をバカにするのもほどがある!僕の話じゃないか。なんだよ。なんで僕に説明してくれないのさ。全速力で走り抜けた。僕は身体の芯は細いが足は速い。すぐには追いつけないだろう。ふん。今頃心配してる事だろう。
「……そうだ。心配してくれてるんだな」
急に頭がさめてくる。ついカッとなって飛び出してしまったが僕の事を考えてくれていたのに。
「だめだなあ。すぐに頭に血が上る。こういうところは母さまに似たのかなあ」
トボトボと寄宿舎の近くまで戻ると子供じみだ自分の行為が恥ずかしくなってくる。
「ああ。公爵様に呆れられたかもしれない」
息子にふさわしくない相手だと思われたらどうしよう。今更ながら身分の違いにとんでもないことをしたと気づく。その場で頭を抱えて座り込んだ。
「もぉどうしよう。僕はなにをやってるんだろう」
「アルベルト?そんなところでどうしたの?」
聞き覚えのある声に驚いて振り返ると母さまがいた。
「え?母さま?どうしてここに?」
「何を言ってるの。卒業式の前に公爵様にご挨拶をしておかないといけないでしょ?だからまずは貴方に会おうと思ってやってきたのよ」
「ぐす……もぉだめかもしれません。僕は離婚されてしまうかもしれない!」
「え?離婚?まだ結婚もしてないじゃないの?」
「うう。どうしよう。サミュエルの事が好きなのに。僕……僕は」
「まあまあ。いい男の子がそんな風に泣くものじゃないのよ。いらっしゃい」
母さまが両手を広げて僕を抱きしめてくれた。久しぶりだ。こんな風に泣きじゃくったのは。
「さあ、それで。サミュエルさんはどうされるの?」
「え?!」
泣きべそをかいてる横でいつの間にかサミュエルがいた。それも凄い気まずそうだ。
「すまない。すぐに追いついたのだが、声をかけるタイミングをなくしてしまって」
「何があったのかは知りませんが、とりあえず今日のところは私がこの子を連れて帰ってもいいかしら?」
「……わかりました。寮には伝えておきます」
サミュエルはそれだけ言って僕を見送った。ごめんよ。だけど今は謝りたくないんだ。
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