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 ここの寄宿学校には親族の泊まるスペースもある。サミュエルの父親の公爵家などは王都にも別邸があるのでそちらに居られるが僕のところのような三流の子爵家にはそのような別邸を持つのも難しい。従って母さまたちは親族スペースで今日は泊まるようだった。 「今日は私とコンラッドで来たのよ。明日にはお父様と他の子達も来る予定よ」  部屋に入ると一番上の兄上(コンラッド)が驚いて駆け寄ってきた。 「どうしたんだ?そんなに目が腫れて」  僕って泣きすぎたのか?見てすぐわかるほど目が腫れてるの? 「今日は久しぶりに三人で寝ようと思ってね」  母さまが片目をつぶってみせた。素敵だ。余計なことは言わないで居てくれるのが嬉しい。   「それで、何があったのか僕にも教えてくれないか?」   コンラッド兄上が心配そうに聞いてくる。母さまがいれてくれたホットココアを飲みながら僕はぽつりと話し始めた。あったかい飲み物は気持ちを落ち着かせてくれる。 「不安なんだと思う。サムの事は好きで一緒に居たい。離れたくないけど、新しい生活に馴染めるのか。僕が領地経営なんてのを手伝えるのか。ちょっと怖くなっちゃって……だから余計に腹が立って飛び出したんだと思う」 「マリッジブルーだったのね」 「「はあ?」」  僕と兄上は互いに顔を見合わせた。 「何それ?」 「ふふ。マリッジブルーってね。結婚直前になって急に不安になったり、気持ちが沈んでしまったりすることを言うのよ。婚姻するんだと自覚し始めると、家庭を築くことへの責任や不安や迷いが現れちゃって、本当にこのまま伴侶になって良いのかと精神的に落ち込んでしまったりするものなのよ」 「そ、そうなのか。僕はマリッジブルーなの?」 「不安に思ってる事をぶちまけてしまいましょう!さあなんでも言ってちょうだい」 「何が不安なのかもわからないよ」 「そうね。じゃあ婚姻後どうしたいかなど聞かせてちょうだいな」 「辺境地についたら屋敷の者達の統率をとって領地経営に励もうかと……」 「はい。それね。上から目線じゃないの?」 「ええ?そ、そうなの?」 「そうよ。まずは新参者です~。教えて下さ~いでしょ?貴族だからっていきなり統率なんてとれるはずないでしょ?徐々にでいいのよ。いきなりなんでも出来たら逆に怖いわよ!」 「そうなの?屋敷の者達にばかにされたりしない?」 「されるかもしれないわね。でもいいじゃないの。出来るようになってから見返してやればいいのよ。だめなのは出来ないのに偉そうにしたり出来るフリをすることよ。汗水たらして頑張ったらいいのよ」 「でも、辺境伯って偉いんでしょ?」 「偉いって位が高いってことでしょ?エラそうにするのが偉いってことじゃないんじゃないの?」  母さまは凄い。僕は目からうろこがポロポロとこぼれ落ちた。 「あのね。新しい場所や誰かと一緒に生活をしていくって慣れるまでは不安はつきものなのよ。でも、それでもアルベルトはサミュエルと一緒にいたいの?」 「…………うん。居たいと思う」 「ふふふ。そうなのね。彼の為なら頑張れそう?」 「うん。頑張れそう……だとは思う」 「そう、じゃあ今の不安に思う気持ちをきちんとサミュエルとも話し合うべきね」 「そっか。そうだね」  それまで黙って聞いていた兄上が口を開いた。 「僕はアルベルトを無条件で応援するよ。どこにいてもお前は可愛い僕の弟だ。何かあったらすぐに言っておいで。でもまあアルなら大丈夫さ。だって家族の中で一番母上に似てるからね」 「まあ。何よその言い方!」 「いやあ、母上には誰もかなわないからね」 「あはは。違いないね」 「私からひとつだけ貴方に言えることは……嫌になったらいつでも帰ってらっしゃい!貴方は私の可愛い息子だもの!誰にも何も言わせないわ!」  
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