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はぁ? なんだ? 名前くらい名乗れよ! ……まあいいや。初日から喧嘩はしたくないし、せっかくこの部屋に移ったんだから多少の事には目をつぶろう。きょろきょろと部屋を見回し空いてるベットに荷物を置くと先住人の彼に声をかけた。
「僕はこちら側のベットだね? 使わせてもらうよ」
「…………」
彼は無言のままである。そりゃ、先にこの部屋にいたのは彼だし僕は後から来たんだから、多少エラそうにされても仕方はないけど。無視はないよな。もうちょっとフレンドリーにしてほしかったな。
本棚に教科書を並べ、クローゼットに制服をかけていると、ヌッと後ろに立たれる気配がして、慌てて振り向く。そこには彼が仁王立ちしていた。
な? なんだ? 何か気にさわる事を僕がしたのか?
「……サミュエル・ブラッドリーだ」
「……は?」
「サムでいい」
「サム?」
「……うむ」
それだけ言うとサミュエルは無表情のままスタスタと部屋を出て行った。
え? まさか、今のが自己紹介なのか? へ?
「今頃? 遅っ! めっちゃ時間差じゃないか?」
それからサムとの同室が始まった。彼は意外ときっちりした性格だった。部屋もきれいに使うし消灯時間になると寝入ってしまう。朝起きるのも早く、僕が寝覚める頃にはすでに部屋からいないときもあるくらいだった。
早朝練習なのかな? 体格が良いという事は授業以外でも鍛錬にでも入ってるんだろうか?
「ねえサム。なにか運動部に所属してるの?」
「……どこにも所属なぞしていない」
「ふぅん。じゃあ身体を鍛えてるの?」
「言う必要がない」
ん〜。話が続かないなぁ。もうちょっと仲良くなりたいのに。
どうやらサミュエルは全体的に言葉が足らないのだ。勉強もできる。運動神経も良い。なのに人付き合いが下手なようだ。
「悪気がないってことがわかっただけでもいいかな」
アルベルトは多少の事ではへこたれない。彼は五人兄弟の三男だった。上には兄が二人。下には弟が二人。ちょうど真ん中で揉まれる様にして育った。両親は跡取りである長男と剣に秀でた将来有望な次男につきっきりで、アルベルトは弟たちの面倒をよくみるようになった。世話好きな性格はその頃身についてしまったようだ。上の二人の兄が父親似で屈強な男臭さがあるのに対し、アルベルトは母譲りの長いまつげに豊かな金髪の持ち主である。だが本人は自分の美貌には無頓着であった。
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